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思いやり航法

 

菅野 最近はモーターボートの増加など高速船が多くなっていて、海上交通の形態も変化してきていると思われます。大型船は小さい船がよけてくれると思っているのに、小さい船はこちらはすぐよけられるからと思っており、お互いの危険予知判断に大きなギャップがあることが問題と思っています。

大型船との関係をどのように感じ、またどのように心掛けておられるかをお聞きしたいと思います。

根本 私はこちらがよけられるならよけるように、よけられないならよけないようにこちらの意思が相手にはっきり分かるように操船するようにしています。避航船と保持船という関係ではなく早めにこちらが大きく舵をきることにしています。衝突したら終わりですから……。

菅野 大型船とスピードのある船との関係について、私は「思いやり航法」ということを提唱したいと思います。

分かりやすい例をあげますと、皆さんも車で高速道路の左車線を走っていてサービスエリアからの進入路に出てくる車を見たら、早めに車線変更して進入車が車線に入りやすいようにしていることでしょう。これはマナーというよりも相手の気持ちを汲んでの「思いやり運転」だと思います。心の問題です。

海上でもプレジャーボート等の小型船が大型船と遭遇した場合は自分が相手船の操船者の立場だったら……と考えれば、自ずから早めに変針する気持ちになるのではないでしょうか。周囲の状況にもよりますが、針路がクロスしている場合は相手がいつよけてくれるかハラハラするより、私は早めの「船尾ヨーソロ!」で気分も楽に、安全運航に努めていました。

山本 思いやりを小さいときに教育するとそれがモラルとかマナーになっていくのだと思います。思いやりがないといくら法令をつくっても安全は守られません。それを教えるには実地で体験し覚えていくしかないでしょう。できれば親子セーリングが理想なんですが。

 

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山本康二(やまもとこうじ)氏

昭和22年生まれ 会社役員

所有艇:ヨット/ノーテック24ft型(定員6)

横浜ベイサイドマリーナにて「横浜ベイサイドクラブ」を設立、同会長。

同クラブを中心に安全・技術・マナーの指導に努め、また「横浜ボート天国」などで啓発活動。

 

記憶か記録か

 

菅野 先ほど山本さんから乗り揚げしかかった事例の紹介がありました。乗り揚げ防止には船位の確認が重要ですがGPSなどは積んでいるのでしょうか。

根本 積んでいますが、岸近くではほとんど使わないですね。GPSは針路を決定するのに使用し、その後はコンパスでその針路を走るようにしています。

山本 私のヨットには積んでいませんが、一度モーターボートで伊豆大島に行ったときGPSを使ったら位置が分かり安心感がありました。

菅野 小型の船もGPSはぜひ積んでほしいと思います。霧が出た場合とか夜間は特に有効と思います。しかしGPSには画面の大小などいろいろあり、その性能をよく理解して使用する必要があります。岸に近いところでは、浅瀬との関係などが安全かどうかGPSだけでは判断できないので、気になるところではやはり海図などでチェックしながら走ることが必要でしょう。

また、GPSに航跡を残しておけば、急に霧が出て陸が見えなくなったときなど、逆にそれを辿って帰港すれば安全です。

 

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菅野瑞夫(かんのみずお)氏

昭和16年生まれ

平成9年3月横浜海上保安部長を最後に退職。

現在、日本海難防止協会企画部長。

 

 

 

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