数値予報モデルの表現能力
初期値解析がうまくいっても、予報が外れる場合があります。
数値予報モデルでは、自然を完全に再現することはできません。計算機で方程式を解くことができるように、空間を規則正しい格子で区切るなどのさまざまな手を加えています。細かい格子にすれば、それだけ扱うことのできる現象や、地形の表現なども細かくなりますが、計算機のメモリや実行時間による限界があります。
現在の気象庁の数値予報モデルは、週間予報が対象の全球域のモデルが約五五キロメートル、二日先までを予報する日本付近のモデルが約二〇キロメートルの格子で計算されます。日本付近のモデルは解像度が高い分、計算領域が狭くなっています。
数値予報の結果においては、一般に、格子で数個分以上の大きさの現象が信頼できるものとされています。計算結果を見る場合には、このことに注意が必要です。
空間を格子で区切った場合、格子の大きさ以下の現象は表現できません。ところが、私たちの周辺には、入道雲による夕立など、格子よりも小さな現象が多くあります。
数値予報モデルには、このような降水現象に加え、地形の凹凸や太陽放射による影響など、さまざまな物理が組み込まれています。その一例を図3に示します。
また、数値予報モデルの計算は、予測対象の要素同士がお互いに複雑に影響し合う、非線形の処理を含んでいます。最近、「複雑系」や「カオス」といった用語を耳にしますが、これは非線形システムによる予測の難しさの一面を表したものです。非線形システムでは、初期条件のわずかな「ぶれ」や、予測方程式のわずかな違いによって、その後の予測が大きく異なる可能性があります。
このような問題点を克服するには、格子をより細かくしたり、物理過程を改善するなど、数値予報モデルの改良によって、自然の再現能力と、その時間変化の追跡能力を高めるとともに、精度の高い観測データをできるだけ多く入手することにより、初期値解析の精度を上げる必要があります。
図3 格子のサイズより小さな現象の例。数値予報モデルでは、直接計算できないこれらの効果を取り込むために、図に示す他にも、さまざまな物理過程が組み込まれている