海の気象
数値予報システム
多田秀夫(ただひでお)
(気象庁予報部数値予報課予報官)
はじめに
気象庁は、一般向けの天気予報だけでなく、船舶の安全航行のための各種海上予報・警報などを発表しています。これらの情報を作成するには、数値予報と呼ばれる技術が欠かせないものになっており、情報の精度も、数値予報の精度に強く依存しています。
数値予報は、スーパーコンピュータを用いて、物理方程式から大気の運動を数値的に解くことにより、未来の天気を予測する技術です。
ここでは、数値予報の抱える問題や、数値予報を取り巻くさまざまな問題を通じ、予報の精度を上げるための工夫について考えてみることにします。
数値予報システム
数値予報システムは、観測・通信の処理、観測データの品質管理や解析、さらには数値予報の計算結果を天気に翻訳する処理など、多くのサブシステムを含めた「総合システム」として成り立っています。
このうち中心となるのは、予報精度に直接影響する「数値予報モデル」という計算機プログラムです。しかし、数値予報処理の全体を考えるとき、観測や解析など、数値予報モデルに情報を与える部分も重要になります。
図1は、数値予報処理の全体を模式的に示したものです。「数値予報」や「気象観測」といった処理の間を、さまざまな情報が流れています。数値予報モデルが性能を発揮するにはいろいろな処理が連携して機能することが必要です。
図1 総合システムとしての数値予報。様々な処理を組み合わせることで、天気予報など、各種気象情報が生み出される
それではまず、左回り(外側の矢印)の情報の流れから見てみましょう。
数値予報の計算には、初期条件として現在の大気の状態が必要です。このため、船舶やブイによる海上気象観測を合め、世界中から集めたデータをもとに実況の解析が行われます。図では、「気象観測→(通信)→客観解析→(初期条件)→数値予報」の部分です。
引き続き「数値予報」から「気象観測」に情報が流れています。予報の精度を上げるには、観測データの有効利用は大切な問題です。このため、観測が少なく、実況解析に誤差を生じやすい地域の改善に必要な情報を提供したり、また、予報の外れやすい地域で特別観測を行って予報への効果を調べるなど、より有効な気象観測の体制を実現するためのチェックに、数値予報の結果が利用されています。
次に右回り(内側の矢印)の流れを説明します。
実況解析を行う際、観測の少ない地域は大きな問題です。しかし、解析結果を初期値として利用する以上、該当地域にも何らかの値をセットする必要があります。このため、客観解析では、前回の数値予報が予想した「今」の値を推定値として利用します。推定値の利用により、観測の少ない地域に対しても、数値予報の精度の範囲内で実況の推定が可能になります。
