江ノ島を取り巻く相模湾は、大島を起点に黒潮、親潮が流入して生物の宝庫といわれ、海岸動物と海底渓谷が複雑であり、深海の生物もサンゴ礁に住むコーラルフィシュも回遊し、タラ、ホッケなど寒帯の魚も流入する豊かな生物相の湾です。
天皇家と相模湾
この相模湾の生物を国際的にも評価された研究をなされたのは、昭和天皇のご研究で、魚類を除く海岸の生物を、膨大な記録を七つのご論文と一四冊の本をまとめられた「相模湾生物」が完成しております。
九回もご来館いただいたことを記録しまして、天皇家の特設コーナーを設けさせていただいておりますが、昭和天皇をはじめ現陛下はハゼのご研究では同時に日本の第一人者であり、魚類学会での三〇近い論文や日本産魚類図鑑に「明仁」と名前を出されて執筆者になっていらっしゃいます。
また、秋篠宮殿下はナマズの研究で有名ですが、家禽類、ニワトリの研究、魚類、民俗学にも及ぶ幅広い自然科学の研究をなされ、最近ではニワトリのDNA分析で博士号を取られました。
天皇家に関しまして余談ですが、最近七月二十日「海の記念日」が祭日として制定されましたが、明治九年函館から明治天皇が横浜湾にお着きになったのがどこの場所かというのが、記録に残っておりませんでした。
当時の第三管区海上保安本部長がある席上で皆様にそのことを情報として知らせていただけないかという問いかけをなさいました。そこで私が生物学担当の宮内庁の目黒侍従に問い合わせをしたところ、侍従が記録されている日誌から、大桟橋付近にイギリス領事館があり、東波止場と西波止場に分かれており、東波止場が「ぞうの鼻」という名称になっております。当時横浜湾には大型の船は入出できず、波止場より小船に乗り沖合の大型船に乗る方法をとっており、岩倉使節団も東波止場「ぞうの鼻」より出発されていることから、この東波止場に降りられたということになりました。
昭和天皇はヒドロ虫類がご専門であり、刺胞動物のサンゴ、イソギンチャク、クラゲの仲間であります。私どもではクラゲの展示を世界に先がけて行いましたが、これも九回にもなる行幸啓のたびに何とかよいクラゲ展示ができないかということからはじまりまして三十年が経ちました。
水族館の役割
水族館の役割は四つありまして、レクリエーションの場、教育の場、調査研究の場、自然保護の場です。これを社会教育施設として自然科学教育を行っております。その調査研究という中で、クラゲを展示活動に持続していくことに、繁殖をさせることが重要です。
クラゲは雄、雌のある有性生殖から無性生殖の世代がある不思議な生活史を持っておりますが、それを何世代までも繁殖させることに技術が必要です。それを研究しておりますうちに、一般にはクラゲに刺されるといういやなイメージからクラゲの毒で印象が悪いのですが、非常に美しい優美な生きものであることで人気生物になってまいりました。
クラゲが海を浄化する機能があることが最近分かりました。活性炭素を入れた真っ黒な水槽内にクラゲを入れますと、体中の水管を通して真っ黒になり、粘膜で一つの黒い固まりにして粒を出し水もクラゲも四時間ほどできれいに元に戻るということを証明しました。