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特集 環境月間にあたって

 

海と魚と私たち

江ノ島水族館

館長 堀由紀子(ほりゆきこ)

 

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筆者近影

 

はじめに

 

今日、海とのかかわりが安全性と防災等を考えつつ多様に高度に利用する場であることと同時に、最近では、生態系に配慮した環境創造が求められております。その中で生物多様性の保全と利用があげられます。水族館はその水界の世界を伝えるメッセンジャーの役割を持っております。

 

海は生命の源

 

母なる海が、海は生命の源であり、生物のすべての生体元素が海水と同様の成分で構成されている事実からしても、海が生命の源であることが理解されます。地球が誕生して四六億年、生命は三八億年から海の中で進化を続けてまいり、陸に進出してきました。

人類が誕生して五〇〇万年といわれておりますが、人も生物も仲間であるということがようやく今日、理解されるようになりました。水の惑星といわれますように、七割方海水でおおわれた地球を、最初の宇宙飛行士は「地球は青かった」と名言を残しておりますが、青く緑の海が最適です。

今、全生物が三、〇〇〇万種といわれておりますが、海洋生物はその約二〇%といわれております。そして、その半分以上が陸と海との接点である海岸沿岸域に生息しております。

一九九二年、世界環境サミットが開催されて以来、地球規模の環境悪化の問題にどう対処したらよいか、グローバルに討議されるようになりましたが、温暖化の問題、気候変動による海水準の問題と同時に「生物多様性」の問題が提案されております。

海は、無限ともいえるほど生物のすみかであったのですが、どんどん減少しております。人類は五、〇〇〇年ほど前から氷河期を経て平均海水準が安定した中で、文明をスタートさせてきました。今日、沿岸に住む人々のくらしは日本で人口の半分を占め、世界でも六五%が沿岸地域の都市に集中し、農業、漁業、工業の産業活動が活発に展開されております。

しかし戦後この五十数年来、もっとさかのぼりますと、二〇〇年前の産業革命以来の経済活動の進展と人口増大が、今や海の生態系そのものに異変を起こしていることも事実であり、乱獲による漁業によって生物は減少し、無限ともいわれる生物が衰退、減少しはじめ、適正な捕獲や利用をしない限り、有限の海洋生物資源として保全を考えなければならない時代に入っております。それは、平成三年一、〇〇〇万トン近くあった日本の漁業生産が現在毎年減少して七四〇万トンになってしまっているということでも明らかです。

 

今、なぜ水族館

 

さて、今なぜ水族館なのかといわれるほど、全国的にウォーターフロントや地域計画の核に水族館が建設されております。自然との共生が大きなテーマとなってきている今日、水辺や海辺の生きものたちはさまざまな話題としてテレビや新聞、諸雑誌に登場し、今まであまり知られていなかった生活行動や、それを取り巻く環境がまるで未知なる世界が開かれるように取り上げられてきております。

このことは水族館での生きものとの出会いは、生物たちの生きざまを目にふれ、手にふれて驚き発見する自然とのふれあいに満足感や安らぎを覚え、ときには躍動感さえ感じるのかもしれません。

 

 

 

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