海の気象
親潮系冷水の南下について
石川孝一(いしかわこういち)
(函館海洋気象台海洋課海洋課長)
はじめに
親潮は千島列島の南岸沿いに南西向きに流れる海流であり、その主要な部分は、北海道東方の北緯四〇度付近で向きを変え、亜寒帯海流として東に向かいます。しかし一部は引き続き、北海道南方、本州東方海域にかけて、南あるいは南西に流れます。
このため、北海道南方および東方海域に冷水がもたらされます。この親潮系冷水は、この海域の海況に大きく影響するだけでなく、漁業や沿岸の気象、さらには海霧の発生により海上交通にも影響を与えます。
親潮系冷水の分布
一般に、北海道南方および本州東方海域の親潮系冷水の分布は、東経一四五度付近から西側を三陸沿岸に沿って南に張り出す分枝(沿岸寄りの分枝)と、その沖合を南下する分枝(沖合の分枝)の形になることが知られています。
親潮系冷水の分布は、百メートル深の水温分布で五℃以下の部分として示されます。
例として、図1に一九九八年七月の百メートル深水温分布図を示します。親潮系冷水の沿岸寄りの分枝は釧路沖から三陸沖西部の北緯三八度付近にかけて分布しています。また、沖合の分枝は、東経一四七〜一四八度付近を北緯四〇度付近まで南下しています。
図1 1998年7月の北海道南方および本州東方海域の100m深水温分布図(親潮系冷水域〈5℃以下の領域〉に陰影を施しています)

親潮系冷水の南下の季節変動
親潮系冷水の沿岸寄りの分枝の南下は、変動が大きいことが知られています。
図2は一九七〇〜一九九八年の二十九年間について、月ごとの百メートル深水温分布から親潮系冷水の沿岸寄りの分枝の南限緯度を読み取り、月ごとに平均したものです。一般に、沿岸寄りの分枝には四月に最も南下して北緯三八度以南にまで達し、十二月には最も北にあり北緯四一度付近に止まっているという季節変動があることがわかります。
図2には標準偏差を合わせて表示してあります。どの月も標準偏差は緯度で一度以上に及んでおり、年による変動も大きいこともうかがえます。例えば、四月には五〜六年に一回の割で北緯三七度以南にまで南下することがあります。親潮系冷水の沿岸寄りの分枝の南限緯度の前月との差は、その月の月当たりの南下速度と考えられます。図3は、南下速度を二十九年間について月ごとに平均したものです。一般に南下速度は二月に最も速く、一カ月で緯度で一度以上南下します。一方、十一月から十二月にかけて一カ月で緯度で一度近く北上します。
前ページ 目次へ 次ページ