巡視船 ロケット攻撃を受ける !
−実は海からのプレゼント
株式会社 舵社
顧問 中川久(なかがわひさし)
今から三十数年前のことだった。
十二月も押し詰まったある日の早朝、犬吠埼沖で機関故障のため漂流中の千トンほどの貨物船が救助を求めていた。
その日はよく晴れていたが、西風がことのほか強く、海上は相当時化ていた。
海上保安部から出動指令を受けた巡視船Gは直ちに出港、犬吠先沖の漂流船に向かった。幸い針路が東寄りであったので、追い風と黒潮の順流に乗って一六〜一七ノットのスピードで快調に飛ばしていた。
船長は昼食後船橋へ昇ってくると、中央の円窓からしばらく前方を眺めていたが、やがて
「当直士官、漂流船まであと何マイルかね」
と尋ねた。
「船長、現在位置から漂流船まで約七〇マイルあります。現在のスピードで行けば十六時過ぎには現場へ着くと思います」
これを聞いた船長は、漂流船の曳航準備のことや現場ですぐに漂流船を発見できない場合の捜索のことなどを考えていた。
ちょうどその時だった。巡視船の前方至近の海面から潜水艦の小型ロケット攻撃でも受けたかのように無数の小物体が船橋目掛けて飛んでくるのを見た。
「あっ」
思わず顔をそむけた船長は、次の瞬間これらの小物体が船橋の前壁へ体当たりするすごい物音を聞いた。
「バサッ バサッ ドタ ドタ」
船橋にいたものは皆、何事が起きたのかさっぱり分からない。
少し経ってから船長が外に目をやって驚いた。甲板上に無数のイカが折り重なって散らばっていてまるで修羅場のような光景を見た。
「おい、みんな外を見ろ」
といった船長は、次の瞬間こんなことを考えた。
「このイカ達は海からのプレゼントだ」
そこで船長はすかさずいった。
「○○操舵員、衣糧長(主計科に属する調理の責任者、現在では主任主計士という)を船橋へ呼んできてくれ。衣糧長以外の者にはイカが船内に飛び込んできたことを今は秘密にするんだぞ」
しばらくして衣糧長が船橋へ現れた。
「船長、何かご用でしょうか」
船長は、衣糧長に前部甲板を見るようにいった。
「これはありがたい。乗組員のみんなには知らせないで下さい。全部主計科で処理します」
衣糧長はすかさず船長の考えの要点をいってしまった。
しばらくすると、主計科総員は手に手にざるを持って甲板に現れ、イカをきれいに片付け、おまけに海水をくみ上げて汚れた甲板などを掃除した。だが、船橋の白い前壁についたイカの墨は海水で洗ったぐらいでは落ちなかった。
衣糧長は船橋へ来て船長に報告した。
「イカは全部で三百数十ぱいです。体長はいずれも四〇〜五〇センチと大型で立派なものです。乗組員四二人の四〜五食分に十分なります。ありがとうございました」