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間もなく検疫官、入国管理官、港務局、税関、代理店等八人が来船して入港手続きが行われた。手続きが終り、しばらくしてからハッチサーベィヤーがきて船艙内の検査、喫水の確認後、午前十時から積荷役を開始した。

長いコンベアーの陸上側には青い建物があり、ドロマイトを積んだ山がいくつか見える。建物の向こうにはやしの木々があり、岸壁近くの海の中には潮間帯に生息するマングローブの木の緑が広がっている。

本船のクルー(乗組員)の中にフィリピン人が一四人乗り組んでいる。そのなかのセブ島に住居のあるもの二人、マニラ周辺に家族のいるもの二人の計四人の家族が来船してきた。マニラ周辺からは空路の呼び寄せであろう。本船は主として中国、台湾の航路に就航している。今回家族を呼んだクルーは、本船に乗船してから一年近くになるが、フィリピンヘの就航ははじめてだというから、まさにラッキーというところである。

私は午後二時過ぎに少年のこぐカヌーに乗って上陸した。積み上げられたドロマイトの山の間を通って広い道路に出た。アルコイの町に向って歩きはじめる。セブ市内へ通っているバスがスピードを出して走っている。道の両側に見える人家はやしの葉で屋根をふいた家が多い。庭には赤、黄、白などの花が咲いている。家並みの間にある広場の一隅の立木にバスケットボールの用具を取りつけて、一〇人ほどの少年が楽しそうに興じていた。

一人で歩いていると「どこからきたか」「どこへ行くのか」と、声をかけてくる。

一時間ほどかかって町に入ると、かなりしっかりした家が密集している。商店、銀行、官庁などがある。

 

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本通りから右へ入ったところに食料品市場があった。屋根の下には魚類、穀類がならべてあり、露店には野菜や果物類がひろげられていた。人の出入りが多くにぎやかだった。

市場の周辺も少し歩いてみた。本通りには米軍の払い下げのジープを改良したジープニーや一二五ccバイクにサイドカーをつけたトライシクルも走っている。

一時間以上も歩いたのでのどが渇いた。小さな店に入って、サンミゲルというビールの大びんとピーナッツを注文した。冷蔵庫に入っていたのでかなり冷えていた。

私が店に入った当初は客が三人いたが、ビールを飲みながら店番の若い主婦と話をしているうちに、少年、少女、青年、子ども連れの主婦などが次々と集まってきて店の前は人だかりでにぎやかになった。

カメラを持っているのがわかると、そのうちの何人かが撮ってくれと盛んに言っているが。ポラロイドではないのですぐにはできないと説明するが、それでもいいからと言うので、何人かの写真を撮ってあげた。

一時間ほど取り止めのない話をしたあと、近くにトライシクルを持っている人がいるからといって呼んできてくれたので、岸壁の近くまで送ってもらった。

積荷役は午後十時に終了した。

翌七日朝五時に乗船してきた代理店員によって、積荷役書類の手仕舞、出港手続きが終り、午前六時アルコイ港を出港して鹿島港に向った。

 

 

 

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