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ずいひつ

つれづれに (27)

フィリピン航路抄

山本繁夫(やまもとしげお)

岡安孝男(おかやすたかお)画

 

明るくなって目的の港に近づくと、山の一部が切り取られて赤土の山肌が露出している。さらに進航すると陸岸からかなり長く海に突き出したコンベヤーと、先端にあるホッパーが見えてくる。辺りの海面には六個の係船浮標と五個のドルフィン(係船柱)がある。

私の乗船していたB号が平成十年六月に東京、船橋、横浜で積んだ雑貨を、基隆、高雄港で揚げる航海があった。高雄港停泊中、次航の航海指図書が代理店を通じて英文のファクシミリで本船に送られてきた。

貴船の第一四次航をアルコイ港(フィリピン、セブ島東岸)から鹿島港ヘドロマイトを輸送することに決めた。適切な指示・条件を示すので参考にされたし。

積荷=ドロマイト

数量=四、〇〇〇トン

傭船者=K汽船

傭船廻航日=六月四日から九日まで

摘要として

A、錨泊位置=北緯九度四九分

東経一二三度三一分

B、入港のすべての手続きが可能であるから、直航にて入港すること

C、アルコイ港入港は日中のこと

ドルフィンバースには灯りがない。係岸はデイタイムのみである。係船ブイ付近はチェーンがあるのでトラブルのおそれがある。

D、積地での特別の注意

このドロマイトは高級ガラスの原料であるから、品質を保持するため他の物質の混合を避けること(さび、くず、汚物など)。船艙内に残っているものに十分注意すること。

E、貨物の保持と船艙内の状態について積地に向って航行中は十分なる注意を払って掃き掃除をしたあと、清水二回水洗後完全に乾燥させること(絶対に海水を使用しないこと)。積地では清水の補給ができないので、高尾港で十分な数量を用意すること。

などが記載されてあった。

 

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高雄港にて揚荷終了後、六月二日午後七時十五分出港してアルコイ港に向った。翌三日午後七時ルソン島北西端のボジドール岬灯台の沖を通過した。四日朝にはリンガエン湾入口を通過し、五日朝にはミンドロ海峡を抜け、夜半にはネグロス島のシアトン沖を通り、北寄りに大きくまわり込んで六日早朝にはセブ島に沿って航行することになった。

セブ島は一五二一年四月二十六日世界探検史上最大の事業を成し遂げたフェルディナント・マゼランの終えんの地であった。一五一九年九月二十日、スペインのセヴィラ港を出帆、困難を克服してマゼラン海峡発見、大西洋と太平洋との連絡、地球球形の実証、時差の認識等の偉業を樹立した。

ドルフィンバースに近づくと、やってきたラインボートで右舷船首から出したホーサーロープが係船ブイに係止された。続いて左舷船首から陸上側のドルフィンにとり、次いで船尾も同様にして係船索をとって、係船機でまき締めながら六日午前七時四十分作業を終了した。

 

 

 

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