4]若年船員の極端な不足
過度な経済競争が若年船員の極端な不足を生じ、船員になって十年経ずに船長となる事態が内航海運では起きようとしている。従来の十分な乗船経験・OJTによる操船技術の継承(伝承)ができなくなっているのである。
船舶自体および陸上支援等の船舶運航全体のシステム化等により経験の浅い若年船員でも安全な運航を確保し得る技術・環境上の条件を整備しなくては、若年船員の減少をとどめることはできないと考える。
日本も含む先進諸国船員のみによる船舶運航を期待することは、進んだ時計の針を元に戻すにも似たものである。国際的な市場にさらされている外航海運、規制緩和の中で新たな競争原理が導入された内航海運において「船舶運航のシステム化」は現実的な対応であり、唯一の策かもしれないと考えるのが妥当であろう。
船舶運航におけるシステム化の試み
近年多発している環境破壊にも繋がる大きな海難事故の多くが操船上のヒューマンエラーを起因として発生していること、船員の技量低下および若年船員の不足等と相まって、船舶運航における操船作業の自動化・システム化が緊急課題として進められている。現在試みられている船舶運航上のシステム化について、船、環境と人の三要素の視点から整理してみる。
(1) 船舶の知能化
船舶自体をシステム化することで運航の安全性と効率を向上することが試みられている。代表的なものとして操船システムの統合化
(統合船橋=Intergrated Bridge/Navigation System=IBS/INS)がある。
船舶運航に不可欠な船橋で実施されている操船作業において、船舶をシステム化することで人間と機械(船舶)との適切な役割分担および人間への適切な支援を実現し、人間を含め操船能力の向上およびヒューマンエラーの発生を防止することを試みるものである。
具体的には、操縦関連情報の収集、加工、表示、操縦指令の実行等を集約、統合化するシステムである。ヨーロッパで初めて開発され日本でも実用化され始めている。
統合操船システムと人間の役割分担は、概略次のように考えられ、操船者が直接的な情報収集や制御系の作業から離れ、管理的な作業に移行するものとなっている。
●統合操船システム=情報の収集・加工、操作命令の実行
●人間=状況認識、行動判断、操作指示
日本で実施された統合操船システム・プロジェクトの一つである内航船近代化において、統合操船システム開発の具体的な目標として設定された項目は次の三項目である。
1]基本的には、港内、輻輳海域を含めてブリッジ内の操船のワンマン化に対応可能な使用を目指すが必要に応じてツーマンにも対応可能とする。
2]支援システムと人間の相補的分担により、永年の経験が必要な操船者の熟練に過度に依存しないで操船可能で、従来以上の安全が確保される。新しいシステムの理解と習熟については適切な訓練などの機会を配慮する。
3]アクチュエータとその制御方式を工夫し、荒天時の耐航性、港内での操船性を改善して、定時性等の向上を図る。
このプロジェクトでは、満足する実証結果が得られたと報告されている。
ここに紹介した統合操船システムのような船舶の知能化は人と機械(船舶)とのかかわり合いを適切にすることを目指し、ヒューマンエラーを防止することで安全を向上しようとするものである。
DGPS・電子海図・レーダーの重畳表示、大洋・沿岸航行時の自動船位誘導による計画航路航行や離着桟時のジョイスティックコントローラ操船等は効率と安全の向上への効果が期待できる有用な試みである。