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記憶に新しいナホトカ号船首部分の漂着

 

このような状況であるが、船舶運航における安全性と効率の向上への社会的要求は質、量ともに増大し、それに対応せざるを得ないのも事実である。この困難な課題への現実的な回答は、やはり「船舶運航のシステム化」以外にないようにも思える。

本論では、この「船舶運航のシステム化」の背景と現状を整理し、安全性と効率の向上を目指した将来への展望を示唆する。

 

船舶運航のシステム化の背景

 

石油ショック以来の急激なコスト競争は、コストの安い急造船舶運航要員のみならず、劣悪な船舶(サブスタンダード船)の運航をも進ませ、近年の海難事故の増加を生み出した。幾つかのタンカー事故等は重大な環境破壊を発生し世界的な社会問題ともなった。低技能船員とサブスタンダード船の増加、これらによる環境破壊を伴う海難事故の増加への早急な対応、対策が国際的に求められた。

前記課題への対策として、ISO9000、ISO1400等に代表される品質管理と環境保護への姿勢が海上輸送サービスにも適用され、船員の技能確保を目的とするSTCW条約、船舶安全管理上のガイドラインであるISMコード、サブスタンダード船の海運市場からの排除を求めるPSC(Port State Control)等が実施された。

しかし、これらは海上輸送サービスにおける環境保全と安全確保への最低限の保証に過ぎず、海運界にはさらなる安全性の確保と経済機競争力の基となる効率的な運航が求められている。その実現には次の課題の克服が不可欠となっている。

1]船舶自体の安全性と効率の向上

2]船舶運航全体の安全性と効率の向上

3]船員教育の改善

内航規制という保護環境下に置かれていた内航海運においても、同様に課題を抱えている。規制緩和による競争の激化と運航・管理コストの低減であり、さらに4]若年船員の極端な不足という深刻な問題も加わっている。

ここに挙げた内航海運が抱える四項目の課題は簡単に解決できるものでもなく、一部は政策的な対応を必要とするものにも思えるが、海運界、また、船舶運航関連分野における解決へ向けた動きが不可欠である。これらの課題に対する一つの解決策が「船舶運航のシステム化」であり、現代の海運業に求められている合理化の流れと技術レベルから、最も現実的、かつ効果的な対応と考えられる。

「船舶運航のシステム化」の具体的な内容と課題との対応を整理して次に記す。

1]船舶自体の安全性と効率の向上

DGPS、ECDIS、Joy-Stick Controller′これらを統合化したIBS等で代表される新しい操船機器の導入および支援等による「船舶自体のシステム化」は、船舶操船上の安全性と効率の向上に大きく寄与すると考えられる。

2]船舶運航全体の安全性と効率の向上

到着予定と目的地が指示され出港した後の船舶運航業務のほとんどが船舶に任されているが、現代の通信、監視技術は、港内から大洋までの陸上からの支援・指示を可能にするまでに至っている。輸送サービスの定時性確保等の効率的な経済安全運航を進めるには、VTS、Remote Pilotage等の陸上からの支援を強化した「船舶運航全体のシステム化」が不可欠と考えられる。

3]船員教育の改善

船舶自体および船舶運航全体のシステム化が進めば、操船者に必要とされる船舶運航上の機能は作業能力から管理能力に移行することになる。船員技術および技能の標準化とシステム化対応などを含む船員教育の再体系化が必要であり、船舶運航の安全と効率の向上を支える「人材育成のシステム化」が不可欠となっている。

 

 

 

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