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船舶運航のシステム化(その1)

人・船・環境の強調を目指して

 

富山商船高等専門学校 助教授 遠藤真(えんどうまこと)

大阪大学 教授 長谷川和彦(はせがわかずひこ)

 

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遠藤真氏

 

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長谷川和彦氏

 

はじめに

 

日本海におけるナホトカ号の折損および大量の油流出事故、その半年後の東京湾におけるダイヤモンドグレースの座礁および油流出事故はまだ記憶に新しい。

ナホトカ号事故は高齢船舶の構造の弱さ、油流出事故の社会的影響の大きさと保険でカバーしきれない船舶の事故処理実態を示した。

ダイヤモンドグレースの事故は大都市東京の目の前で発生した油流出事故であり、マスコミにも大きく取り上げられたが、流出量も少なく、直ぐに社会的には沈静化した。一般社会の取り扱いとは別に、世界最大の船会社の保有船舶に熟練パイロットが乗船していて発生した座礁事故であったことが、海運関係者には大きなショックを与えた。

ナホトカ号事故は油流出事故を起こしてはならないことを、ダイヤモンドグレースの事故は、熟練パイロットが乗船しても、熟練船長を含む三人の船舶側当直者が同じ船橋にいても、海難事故は簡単に発生することを示した。

ダイヤモンドグレースの事故原因は単純な操船者の誤り(ヒューマンエラー)として処理され、船会社は再発防止に向けて委員会を設置し、パイロット乗船時を含むブリッジ・リソース・マネージメント訓練とISM(International Safety Management Code)の徹底を決定し、実施していると聞く。

船舶運航システムは船舶を操縦する運航者、操縦対象である船舶とその船舶が航行する航行環境の三種類の要素から構成されている。海上における船舶運航上の事故は、これら三種類の要素のどれか、または、複数に発生したトラブルが原因となって生じるのである。

船舶の運航制御のみならず、航行環境および船舶の安全性の査定をも、運航者が行っている現状から、航行安全の責任のすべてが運航者に担わされているのが現状である。

すなわち、海上船舶事故のほとんどすべてが何らかの形で運航者の誤り(ヒューマンエラー)に起因しているとして、操船者ならびに船長がその過失責任を問われる形で行政処分が実施される場合が多い。

一方、大多数の船舶は事故を起こさず航行しており、その船舶の安全性を確保しているのも運航者の機能(ヒューマンファクター)であることも忘れてはならない事実である。

船舶運航システムは人(操船者)・船・環境(自然および交通)からなるにもかかわらず、人(操船者)のみに航行安全上の責任のみならず、作業までが担わされ、さらにそれが質的、量的に高度化しつつある。

 

 

 

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