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海中転落とゴム合羽

−生き抜くための絶対の条件−

(社)北海道漁船海難防止センター

事業推進主幹 小沼勝郎(おぬまかつろう)

 

はじめに

 

北海道では、漁労作業を行う際の漁師さんのいでたちは、ゴム合羽にゴム長靴姿が一般的です。最近では、薄手の塩ビゴム合羽を着用する若い漁師さんも多くなっています。

このようなゴム合羽を着用した状態で、海中転落や船の衝突などで、海に投げ出された場合どのような結果を招くでしょうか。

当センターでは、北海道各地の漁業者、救難所員あるいは北海道立漁業研修所研修生を対象として、この種の海難を想定し、救命いかだでの漁船からの脱出や、海に投げ出された場合の対応などのサバイバル訓練を実施しています。

この訓練では、衣服を着用して、またゴム合羽とゴム長靴を着用して、どれくらい泳げるか、どれぐらい浮いていれるか、安全衣(救命衣)を着用している場合はどうか。などについて漁師さんや漁業研修生らが、実際に海やプールに入って体験する訓練を行っています。また、当センターでは昭和五十五年に「ゴム合羽と海中転落事故に関する調査研究」を実施しているので、この研究結果にも若干ふれ、これらの概要を紹介します。

 

着衣での泳げる距離の限界

 

平成九年九月、漁業研究所においてのプール(淡水)での実験では、十九歳の研究生二人が作業服を着用したまま泳いだ結果、二人とも三〇メートルを泳ぐもこれが限界でした。

平成十年十一月に羅臼漁協組合員を対象とした、温水プール(淡水)でのサバイバル訓練では、二十四、五歳の若い人の中には、作業服を着て五〇メートルを泳ぎ、まだ余裕のある人もおりました。平均的には三〇メートルぐらいでした。

 

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漁船からの転落浮遊実験(浜鱒漁協)

 

ゴム合羽とゴム長靴を着用しての泳げる距離の限界

 

漁業研修所の研修生と羅臼漁協組合員を対象としたサバイバル訓練では、ゴム合羽とゴム長靴を着用しての泳ぎでは、着衣での平均的な泳ぎの場合と同じで三〇メートルが限界でした。

ゴム合羽とゴム長靴を着用しての泳ぎは、だれもが何十メートルも泳ぐことは無理と考えがちですが、落水初期は合羽内の空気が浮力となることもあって、ある程度の距離を泳ぐことが可能です。

当センターの調査研究所では、作業服にゴム合羽とゴム長靴を着用したA(水泳能力上級)・C(水泳能力初級)と、作業服塩ビゴム合羽(薄物)にゴム長靴を着用したB(水泳能力中級)の三人が、プール(淡水)で五〇メートルを泳いだ結果、Aはまだ余力がありましたが、BとCは五〇メートルが限界でした。タイムは、AとBは一分三十九秒、Cは二分十三秒でした。

 

ゴム合羽とゴム長靴を着用して浮いていられるのは何分ぐらいか(調査研究)

 

1]水槽(淡水)実験

実験者がゴム合羽とゴム長靴を着用、シュノーケルを使用して静かに水槽に入り、うつ伏せの浮遊姿勢をとる。二分経過後に長靴内に水が入って足が沈み始め、四分経過で袖口が沈み始めた。五分経過後に浮力は若干であったが実験を終了。

青色塩ビゴム合羽では、一分五十秒で足が沈み始め、二分五十秒で足が底に着く。

シュノーケルを使用しないで、塩ビゴム合羽を着用して同じ実験を行ったところ、三十秒で袖口から浸水し、一分三十秒で足が底に着きました。

 

 

 

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