レポート1] 人生にハンディを背負った仲間たち。
協力雇用主
長瀬四郎
私が鉄筋結束の作業に従事して35年、自ら事業を営んで25年余りが経過しました。私自身、鉄筋工として多くの仲間と作業に携わり、作業が完成した満足感を数限りなく経験してきました。その中のいくつかの満足感は、いわゆる「人生にハンディを背負った仲間」との共同作業の結果でもあります。
私が事業を営み始めて間もないころのことでした。仕事の帰りに車で送ると言うと、必ず断る従業員がいました。理由を尋ねると、「俺は更生保護施設にいるから」と言われ、最初は何のことやら分かりませんでした。その後、更生保護施設についていろいろ知ることができ、更生保護施設で生活している人が仕事を探していたので、私の事業所で働いてもらうことになりました。それから今日まで、一緒に働いた人は100人近くに上ります。
加藤君(仮名)は、まじめに働いていたものの、突然姿をくらまし、東北地方の警察から連絡を受けました。私が加藤君を引き受ければ釈放すると言われ、不案内な東北路を列車に揺られ、往復20時間の旅行をしたことも忘れられない出来事の一つです。同じ釜の飯を喰い、同じ目的に向かって頑張った仲間だと思うと、東北まで赴かざるを得ない気持ちになったのは当然のことと思います。彼は私の顔を見て驚き、彼の流す涙に私ももらい泣きしてしまい、五十路を控えた男性が一体どうしたのだろうと思われたでしょうが、そんな二人が何とか当地まで帰ってきたこともありました。
また、田中君(仮名)は鉄筋工として、既に10年近く精勤しています。本人の了解を得て天引き預金を続けたりして、生活は安定へと向かいましたが、誰の目から見ても仕事ぶりが安定して見えるようになるまでの彼の苦労は、計り知れないものだったろうと思います。鉄筋結束の作業においてさりげなく頑張る姿勢は、仲間の模範です。周囲の仲間が、「結婚でも」と冗談混じりに話しても、彼はまるで他人事のように振る舞い、相変わらず黙々と作業に携わっており、寮の生活も平凡が当たり前のような日々を送っています。
他にも出会いは数えきれません。100人近い「人生にハンディを背負った仲間」とのかかわりの中で、私も彼らに刺激されて、自分を高めていくことができたと思っています。私の一方的な思いですが、社会で懸命に生きる人たちにとってはすべてのことが公平であり、頑張った成果が社会で正当に評価されるべきであるのに、過去に犯した過ちが評価に影響することには、納得しかねます。さらに、前非を悔い改めて何倍も頑張ろうとしている人たちこそ、正当に評価されねばと思います。私たちは社会から有形無形の恩恵を受けながら、平和な毎日を送っています。これからも多少なりとも社会に貢献したいと思う日々です。