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お世話になった「沖縄県立那覇病院附属南大東診療所」は、村役場にほど近く、村立の地域保健センターに向かい合う場所にあり、医師1人、看護婦1人、事務職員1人の3人のスタッフで運営されている、私の期待通りの「離島の診療所」であった。指導して下さったのは普天間朝拓先生で、自治医科大学を卒業後、沖縄県立中部病院での研修を経て、南大東診療所勤務3年目という若くて熱意あふれる、活動的なドクターである。

研修初日の12月20日は沖縄にしては珍しく、コートが必要な程の寒い日であった。「月曜日はただでさえ混むのですけど、この寒さで先週末から体調を崩す患者さんが多くて」朝10時に南大東空港まで迎えに来て下さった事務職員の西浜さんは、そう言いながらかなりのスピードで車を走らせて行く。診療所に着くと、その言葉通り待合室には満員の患者さんであった。あいさつもそこそこに、診療を見学させて頂くと、高度に専門化、細分化された大学病院の外来診療とは対照的な医療の現場があった。水痘の子供、高血圧のお年寄り、発熱した乳児、蜂窩織炎の男性……この他にも様々な内科的、外科的疾患を抱えた患者さんが外来を訪れていた。そのようにいろいろな患者さんに対して、普天間先生は実にたくさんのこと(医療行為)を行っていた。基本的な問診や身体診察に始まり、レントゲン撮影、グラム染色、尿検査、簡便な血液検査、抗生剤の点滴、検鏡検査、切開排膿やギプス固定に至るまで、その合間にカルテ記載や調剤をしながら全て一人でこなしていたのである。あいにく看護婦さんが本島に出張中とのことで、ほとんどの業務を先生が行うことになったようであったが、3日間でのべ100人程の患者さんを相手にしてのこの軽快な孤軍奮闘に、私は大きな驚きや感銘、そして離島の診療所と医師の底力を感じた。

研修期間中には、外来診療の他に妊婦検診、インフルエンザの集団予防接種、在宅酸素投与の患者さんへの往診などがあり、離島の医師の様々な役割を見ることができた。

今回の研修の最大の収穫は、離島医療の現場を見学できたこと、そしてもう一つはそこに働く普天間先生とお話しする機会を多く得られたことである。時に( ? )お酒をまじえて、離島・地域医療のこと、総合診療のこと、お互いの大学や中部病院のことなど、多くの貴重なお話を伺えたことは何より楽しかった。患者さんからいつ呼ばれるか、先生の携帯電話を横目に飲むビールの味はまた格別であった。

最後に、多くのことを御教授頂いた普天間先生、お世話して下さった西浜さん、南大東島の方々、そして研修の機会を与えて頂いた全国自治体病院協議会に厚く御礼申し上げたい。

 

 

 

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