ある年、滞在していた小浜島(石垣島から船で30分の小さな離島である)のホテルで、夕食後に父親が体調を崩した。くり返す嘔吐と下痢は、おそらく食べなれない魚貝類へのアレルギーであったのだろう。心配した母親と祖母はフロントに連絡して、島の診療所の先生に診てもらえないか相談した。ところがフロントの人は「今夜は島のお祭りで、診療所の先生もそっちに行ってしまって」と言う。更に「お祭りはシマの外の人はなかなか入れないんですが、やはり診療所の先生は特別でしてね」とつけ加えた。父親の症状は間もなくおさまり、診療所を受診したのは翌朝になってからであったが、この出来事は私に「離島の診療所」を身近に感じさせただけでなく、「シマの外の人」でありながらシマという強い共同体に迎えられる「診療所のお医者さん」、ひいてはその職業としての医師に私が注目するきっかけとなったことは間違いないと思われる。今にして思えば、であるが。
私が今回研修を行ったのは南大東島である。天気予報や台風情報でおなじみのこの島は、沖縄本島から東に約370km、飛行機で約1時間の、太平洋にぽっかりと浮かぶ島である。人口1500人、周囲21kmのこの島は、1900年に開拓されて以来の「製糖の島」で、サトウキビ栽培と製糖業が基幹産業である。大規模で盛んな製糖のため労働者人口の割合が高く、高齢者人口が少ない。離島のイメージとしての「過疎化と高齢化」はこの島にはあてはまらない。そういう意味ではやや特殊な離島であると言えるだろうか。