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伊平屋島診療所見学記

 

大分県・大分医科大学大学院

近藤真喜子

 

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伊平屋島は人口1500人余りの、自転車で半日もあれば1周できるほどの小さな島です。海は限りなく透明で美しく、もう少し暖かければ水泳ができるのにと残念でした。島中、開発のための工事が盛んでしたが、工事現場で働いている人も含めて島で出会った人々は、皆、素朴で親切な人が多かったように思います。

診療所は看護婦2人、事務の方1人、それに医師が1人で運営されています。通常は検査技師の方がしてくれるレントゲンや血液、尿などの検査は必要に応じて医師、または看護婦が行い、あまり急がない定期検査は週1回、船で本島の病院に運ばれて行われているとのことでした。

患者さんはお寄りと子どもがほとんどでした。お年寄りは、主として高血圧や糖尿病などの内科的疾患に加えて、必ずと言っていいほど腰痛、膝関節痛などの整形外科的疾患を合併していることは他の地域と同じでした。違っていたのは整形外科の専門医がいないために、ありふれた症状や疾患は全て自分1人で診なければいけないということです。こどもは気管支喘息と、とびひなどの皮膚疾患が多かったように思います。

 

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私が最も感銘を受けたことは、最低限の検査と薬によって、患者さんにとっては最高の医療を行うことを、日々心がけ実践しておられることでした。具体的には、最近よく言われているところのEBMを、コンピューターを駆使して実践していることや、e-mailやデジタルカメラなどによって、皮膚科などの専門医とその日のうちにconsultationを行うといったことなどです。特にEBMによっては不必要な薬や治療が取り除かれ、最新の最も効果的な治療を行う上で重要です。比較してみることで、自分の今行っている検査や治療に無駄があることに気付かされました。

離島で診療を行うには、必ずしも高度な専門的知識や技術は必要ではありませんが、緊急事態に対する初期治療は全科にわたって確実にできなければいけないということ、また都市の病院に勤務しているときのように気軽に他科にconsultationできないために、紹介する場合も必要かつ十分で、しかも機を逸してはいけないということなどを感じました。つまり、多科にわたる幅広い知識と経験を有し、とりわけ緊急事態やcriticalな事態を予想し、機を逃さずして専門医に紹介できる能力が必要であると感じました。そしてcommon diseaseに関しては、多科にわたる幅広い知識と経験に基づいた確実な診療能力が必要であると思いました。つまり、common diseaseに関しては診断、治療、患者さんへの説明が十分にできるということです。

 

 

 

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