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(5) 往診

往診には定期のものと不定期のもの、集会所で行うものと個人の家まで行くものとがある。個別の往診では診療所に来る手段のない人、目が見えない、送り迎えをする家族がいない、不便なところに家がある、寝たきりの人、などを診る。

薬の処方では、高齢者では飲み忘れ、飲みすぎが多いことをふまえ、解り易くのみ方を説明した袋に分けて入れる、万が一のみ過ぎても中毒量に達しにくい薬を選ぶなどの注意をする。暖房器具についてはストーブが倒れやすい位置にないか、一酸化炭素中毒になる可能性はないかなどをみる。

寝たきりの人では褥瘡の状態もチェックする。また、家族に食事の摂取量や尿量、機嫌の良し悪しを尋ねる。

(6) 訪問看護

訪問看護では、交通事故で植物状態になった患者の膀胱洗浄を見学した。週に3回と、かなり頻回に行われていた。

(7) 総合病院との連携

久賀診療所では対処できない患者は、福江市の五島中央病院に搬送する。私が遭遇した例では、前日から胸が苦しいと訴えていた80歳の女性が往診で心筋梗塞を疑われ、五島中央病院に送られた。平日の昼間だったので人手がなく、近所に住む親戚が人を呼び集めていた。道が狭いため軽自動車しか通れず、患者は港まで担架で運ばれることが多い。港からは海上タクシーで福江島の港まで運ばれ、福江島内は救急車で病院まで運ばれる。それぞれの交通機関の間でのスムーズな連絡が必要とされる。

 

デイサービスセンター

島にあるデイサービスセンター「聖マリアの園久賀島デイサービスセンター」も見学した。現在は通所者から一律500円ずつ集めたお金と、補助で何とか運営しているが、介護保険が始まると、制度上の理由と、利用者が過疎地のため少ないことなどから存続が危ういと聞いた。介護保険の問題点を実際に身近に感じた。

 

感想

僻地では特に、患者と医師の関係が密接だと感じた。久賀島には医師が不在の期間があり、その間住民は不安感を抱えながら暮らしていたと言っていた(特に高齢者、子供を持つ家庭は)。自力で通院できる人の中には島外の病院に行く住民もいるが、ほとんどの住民は島内の診療所に行くため、信頼できる医師ならば、その人に寄せる期待は都会よりも非常に高いように思う。住民の、医師を大切にしようという気持ちがみられた。また反対に医師は、独善的になりやすい点に注意しなければならない。

今回の研修は私にとって貴重な経験だった。都市部と過疎地での受けられる医療の差が予想していた以上に大きかった。これは、個人個人の医師の志向にもよると思うが、医師を過疎地に向かわせる制度は重要だと思った。また、将来の日本全体でおこる高齢化に伴う問題(老人を介護する人がいない)を目の当たりにし、ショックを受けた。この研修で学んだことを、将来実際に医療活動を行う時や日本の医療問題を考える上で活かしたい。

最後に、このような研修の機会を与えていただいたことに感謝している。

 

 

 

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