日本財団 図書館


デイケアセンターの実習では、デイケアサービスを受けている方々の血圧、脈拍、体温の測定がありました。医学部4年生では講義ばかりで、病気について先生方の説明を聞くだけです。診察などといった実技は、一度説明を受けたことがあるだけです。実習は学生がお互いに少しやったという程度。それも仲間内でやっているだけなので、お互いに手順について話をしながらです。

「聞こえる ? 聞こえない ?」

「違うって、それ。こうだよ。」

などと、実に気軽。測定値が間違っていれば、何回も測定することができ、少々失敗しても、笑い話でおしまい。測定される側のことを考えなければならない状況ではありません。本当に血圧、脈拍、体温の測定をしたいといえるのは今回が初めてでした。実際に測定をした人の人数はそれほど多くはありません。が、実にいろいろな人がいました。脈拍を数えている時に話しかけてくる人。マンシェットを巻くと「何をするの ?」と尋ねる人。マンシェットで締めすぎると「いたいわあ。」と率直な人。ひととおり測定した後、結果を伝えるのを忘れてその場を離れようとすると「どうだった ?」と尋ねる人。腋が痩せていて体温計をはさんだままでいることの出来ない人。高齢の方が多かったのですが、本当に十人十色。核家族で育ったため、何人もの高齢者と長い時間を一緒に過ごしたことはありませんでした。高齢者というと無口なものと思っていましたが、人それぞれ。高齢者という一つの型を考えがちでしたが、どこにでもいる人が年をとっただけということを実感しました。また、デイケアセンターで他の高齢者と同様に過ごしている人のなかにも基礎疾患を持った人、脳梗塞の後遺症のある人などがいました。年をとるということ、年を重ね衰えていくことを、片鱗だけですが、実感しました。

今回の実習では、実際に生きている人間を見ることができました。学校の講義ではどうしても疾患が中心です。もちろん、疾患に関する知識が無ければ患者さんの治療はできません。患者さんに同情して涙を流すだけでなんの治療も出来ない医者は、なんの役にも立ちません。が、疾患だけを考えて疾患の分析についてだけ考える臨床医では、患者さんはモノ扱いされているとしか思えないでしょう。臨床に関っているということは、人間を相手にしているということ。それを忘れないでいきたいです。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION