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そこのおじさんは沖縄の民族楽器、三線を教えてくれたり、パイナップルを山ほど持たせてくれたりと、とても暖かくもてなしてくれた。しかし、三線を練習しないでテレビを見ているとしかられるのには閉口した。

大原診療所は、林先生という自治医大出身の若く見えるが中堅の先生と、看護婦さん1人、事務の方1人という構成である。患者数は20〜27名/日、疾病の種類は軽い怪我や頭痛、貧血から、心臓、腎臓、肝臓の疾患、糖尿病の経過観察、椎間板ヘルニア、手根管症候群、パーキンソン病など多岐にわたっていた。私は、沖縄独特の風土病や怪我(ハブ、サソリ、ハチ、ウミヘビなど)を期待していたが、そういうのは余りないらしい。夏休みの時点で、私の臨床の知識はまだ半年分しかなく、先生に心電図の原理・見方、聴診の音、検査値について、心臓の解剖、神経の走行とそれらの臨床における意味、X線の見方、診断の仕方、問診の仕方など様々なことを教えていただいた。

患者さんには、無愛想な人や話し始めたら止まらないおばさん、怖そうなお兄さんなどがいたが、先生は聴診や検査、的確な問診によって次々と除外診断をして診断をしていく。爪がはがれた、釣針が刺さったなどをサッと処置し、粉瘤を切開し、深いじゅくそうのデブリードマンを大胆かつ繊細に行い、必要があれば自分でX線を撮る。分からない時は検査値を元に自分のノートや参考書を調べ、それでも駄目なら親病院とのパソコンネットで質問する。すべてのことを一人でやるので幅広い臨床能力がつくように感じた。また一番大事なことは、自分の手に負えるか負えないかを判断することだと教えてくれた。

月に2回の八重山病院(石垣島)での研修では、内視鏡などの技術を身に付けるらしい。私も最終日に石垣島に同行したが、やはりそのような技術の面では離島に勤務している分だけ遅れてしまうようである。しかし林先生はそのような遅れは、やれば取り戻せるのだから余り気にしないと話してくれた。その日は、たまたまインド人のマラリア患者が救急に運ばれてきたので、私は初めてマラリアの患者さんをみることができた。病院の中でもとても珍しいらしく、様々な部署から人が検査部に集まり、みんなでわいわい言いながらマラリアのプレパラートをみた。忘れられない思い出である。また、そこでたまたま出会った城所先生の市民講演についていって話をしているうちに、先生が学生時代にJOCS(海外医療協力をしているNGO)に関わっていたことを聞いた。JOCSは私の海外協力の夢を育ててくれた団体である。私はこんなところで自分の夢と今回の実習がつながったことにとても驚いた。今回の実習や人との触れ合いをとおして得た経験は、私の人生において重要な位置を占めるようになる気がする。

最後に、受け入れてくださった林先生、このような機会を提供してくださった全国自治体病院協議会に心から感謝致します。

 

 

 

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