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いずれも紹介状を持参しておらず、自らの判断で精神科を受診した方々であった。おそらく精神神経科ということで(「神経」という名前がついていることによる)勘違いをして受診したものと思われた。最近は大学病院など大病院では、診療科の専門化、細分化が進んでいるため、何科を受診すればよいのか判らないといった方々が増えているように思う。確かに一般の方々にそれを求めるのは無理であり、何科を受診すればよいのか判らないので来院している方もいると思う。とは言うものの、私のほんの数年間の臨床経験からしても、腰が痛いということで、まず真っ先に精神神経科を受診し、診療後も自分の勘違いに気付いていないように思われるケースは多くは無いと思われた。これにはいくつかの原因が考えられる。

(1) 僻地であるが故の情報量の絶対的不足。

(2) 高齢化による情報の認識不足。

(3) 受診前問診の不足。

(4) 受診前問診に対するアドバイスの不足。

(5) 診療科数も含む医療資源の不足。

(1)(2)に関しては、一概に島民の健康に関する意識の低さからきている訳ではないと思われた。逆に私としては、島民の健康に関する意識の高さに驚かされることが多々あった。(3)(4)は医者も含めた医療スタッフの更なる努力と工夫により改善されると思われる。(5)に関しては町の財源と島民のニーズの大きさによるのであろうが、6千人あまりの島人口に対し、医療施設(診療所や病院)が5つ、医師が7人という状況は決して少ないとはいえないと思う。どこまで専門診療科を充実させるかが問題となるであろう。いずれにしても、私たち医療従事者は(1)〜(5)のすべての問題にかかわり、それを改善していることが可能である。

2] 往診見学

往診件数は自分で思っていたよりは少なかった。伺ったお宅はほとんどが質素なつくりであった。12月でも1日平均気温が約18℃の与論島では、保健衛生の観点からは家屋のつくりというものは最優先課題にはならないのかもしれないが、十分介入の余地があるように思われた。

パナウル診療所の古川誠二先生の往診にも同行させて頂いた。90歳台と100歳台の女性宅を伺ったが、どちらも20歳は若く見えた。与論島では死亡例の80%が在宅死とのことであった。私も個人的には在宅死推奨派である。私の考える在宅死のメリットは、残された人々への教育効果(特に死生観について)である。衣食住を共にしていた人がある日死ぬ。これが大事なことであると思う。しかし、核家族化が進む現代において、その効果はあまり期待されないかもしれない。ここで言及すべきことがある。埋葬法についてである。与論島では土葬が行われており、人が亡くなると葬式を行い墓地に埋める。遺体を埋めた場所には棺蓋(ガンブタ)という屋根のようなものを建てる。その後3〜5年して可能な限り骨を掘り起こし、洗い(『洗骨(せんこつ)』という)、壷に収めて改めて墓に納める。古川先生がおっしゃるには、死後もよく面倒を見てもらえるということが大切なことだとか。車で通過しただけであったが、墓地には棺蓋があり、そこにはおじいちゃんなり、おばあちゃんなりが眠っているように私にも思えた。現在与論では火葬場建設が最優先課題だそうである。もちろん島外の人間である私のようなものが意見する資格がないのは十分承知しているが、以前より私自身は土葬されたいと思っている。

3] 健康診断結果返し手伝い

厚生連の健康診断結果返しの集まりで企画された個別相談の手伝いをした。ここの人々は、自分自身の健康に関する関心が非常に高いというのが私の感想であった。このような集まりに中高年齢者が積極的に参加するというのは、経済的に余裕が生まれ、その結果として時間的、精神的な余裕が生まれた方が多くなったということかもしれない。受健診者の一人から次のような質問をされた。「ALPってのだけが高いのですが、これを下げる薬はありますか ?」この質問は、日本の僻地医療や健康診断の現状を端的に表していると思えた。離島を含む僻地では情報量の絶対的不足が確かにあるが、それを補うための健康教育などは偏ったものにならないよう、医療従事者側も常に学習と工夫が必要であることを自覚反省させられた。

4] 介護保険認定会議参加

ハイテクノロジーを用いての初めての遠隔会議だったそうで、参加者の移動費用など費用効果の面からも、特に離島間の合同会議などでは今後ますます応用されるべきと思われた。会議の方であるが、在宅死の割合が高いこの島で、どうにか家族の負担を減らして在宅での介護を継続させてあげたいという医療従事者側の意思が感じられた。

 

 

 

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