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外来の患者さんは多種多様でした。乳幼児では浸出性中耳炎、小児では花火で火傷した子や咽頭痛の子、肘内障もいました。青年から中年では島名物の「愛とロマンの8時間コース」(島の東側の険しい道を8時間ほどかけて歩くハイキングコースで、歩ききる頃にはメンバーの中に愛が芽生えるという話です)を歩いて膝が痛くなった観光客や、漁で指を切ってしまった人、顔面ヘルペスで湿疹の出た人や、橋本病、再生不良性貧血、糖尿病、高血圧など。老年では糖尿病、高血圧が多く、他に肝炎や間質性肺炎、膿胸の入院患者もいました。1日に200人ほど診察するそうです。

秋田大学の先生が行っているという理由だけで礼文島での研修を決めたので、最初は離島での医療についてなど、何一つ知らない状態でした。島に行く前に全国自治体病院協議会から送っていただいた資料で、医師が2人という事にまず驚きました。論文を読んで、救急時の輸血・搬送等がどうしても本土と比べて不利になることや、医師が島から離れにくいことなど、初めて考えさせられました。実際研修に行って、他の医療従事者も少なく、医師と同様ほぼ1年中オンコールの状態である事を知りました。患者が多様であることも聞いてはいましたが、大学での病院実習で、すでに科ごとに振り分けられた診療に慣れていた私にはちょっとしたショックでした。自分の専門以外にも幅広い知識が必要なのだということを実感しました。

夏の島はフェリーが1日4本、飛行機が1本往復し、観光客も多く、花で覆われにぎやかですが、冬はフェリーも減り、飛行機は悪天候によりすぐ飛ばなくなります。雪につつまれた静かな町になるそうです。その中でも診療は続くわけです。幅広い知識や技術だけでなく、長く離島で医療を続けるならば、相応の覚悟と熱意も必要だと思いました。今回の研修は僻地医療に関心を持つ良いきっかけになりました。医師として十分な知識や技術、そして自信を持つにはこれから何年もかかりますが、目前の仕事に忙殺されず、続けて僻地医療に関心を持っていようと思います。

(文献)

1) 菅原斉他:離島中核病院での緊急輸血の現状と今後の課題、へき地医療の体験に基づく学術論文集1994年度No3:1-5、1995

 

 

 

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