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伊平屋島診療所を見学して

 

福岡県・久留米大学医学部5年

藤枝恵

 

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島を車で一周しました。するとそこには手付かずの自然が残っていて、その景色の美しさに驚きました。海は、エメラルドグリーンでした。珊瑚礁が豊富なため、海の色はところどころで、違った色に反射して、島の上から、どこに珊瑚礁があるかが分かるほどに海は澄んでいました。海から顔を出す岩も、波に削られて、丸みをおび、天然の彫刻ともいうべき美しい形をしていました。山は緑が美しく、亜熱帯の木々とその間から見える海のコントラストは、まるで絵のようでした。自然はなんと美しいものか、このような美しい自然が破壊されないように、このままの形でずっとあればいいのにと思いました。

島の診療所は、まるで井戸端会議場です。この島の人々は、お互いのことを良く知っています。島の人は、高校から沖縄本島の方に行くそうですが、ほとんどの人はまた島に戻ってくるそうです。何世代にもわたって島で育ち、住んでいる人々は、お互いにどこの誰なのか、家庭環境はどうかなど、良く分かっているのだそうです。私が、診療所の待合室にいると、耳の不自由な患者さんとその他の患者さんが、手話らしきジェスチャーで、楽しそうに、話しをしていました。この手話は、全国どこでも通じる手話ではなく、どうやらこの土地独自のもののようでした。私が、この耳の不自由な患者さんの、酒落たTシャツと半ズボンを褒めると、その向かいに座っていた別の男性の患者さんは、それを、手話で伝えます。するとこの患者さんは、笑って喜びました。私が、状況をよく飲み込めずにいると、また別の女性の患者さんが、この患者さんは、耳は不自由なのでみんなジェスチャーでコミュニケーションしていると、説明されました。

 

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という具合に、島では障害を持った人も、コミュニティの中で、自然に暮らしているようでした。この耳の不自由な患者さんも、島の人と同じ様な肉体労働の仕事をされていたそうです。障害があるからといって、過度に特別扱いをするのではなく、一緒に生きていくそういうコミュニティが存在していることに感動を覚えました。日本の地域社会もかつては、この島と同じ包括力を持っていたのではないか、それが経済が発展し、家族がばらばらに、生まれ地域と別の場所に住むことが多くなって、壊れてきたのではないかと思いました。現在の日本では、健全なコミュニティの破壊によって、新たな問題がもたらされています。これからは、こうした昔ながらのコミュニティの機能を見直す必要が出てくるのではないかと思いました。

 

 

 

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