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伊是名島訪問記

 

熊本県・熊本大学大学院

砂子由美

 

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平成11年6月初旬、全国自治体病院協議会の補助をうけ、沖縄県伊是名島にある県立北部病院附属伊是名診療所を訪れた。東シナ海の小島である伊是名へは、まず那覇から名護までバスで2時間、さらに今帰仁村の運天港まで移動し、一日に2往復する村のフェリーに揺られて1時間程で到着する。台風の季節にはこのフェリーが運休となり、人だけでなく物質の行き来が丸一週間途絶えることもあるそうだ。島は周囲20km弱で、自転車で簡単に一周できてしまう大きさ。標高120mのチヂン山と大野山があり、緩やかな傾斜地にサトウキビ畑がひろがっている。周囲の海はぐるりとリーフで、沖縄県内でも有数の養殖モズクの産地になっているそうだ。

伊是名診療所はもちろん島で唯一の医療機関であり(村立の歯科診療所はあるが)、赤ん坊からお年寄、妊婦さんまでやってくる。診療所に入院ベットはなく、入院治療を要する急患は自衛隊のヘリコプターで那覇に送るのだそうだ。レントゲン撮影も医師自身が行い、血液検査は週一回にまとめて沖縄本島に送り結果は翌週。CT・MRIは患者さんに本島まで行ってもらうといった具合で、診療所でも時間はゆったり流れている。

 

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診察室で沖縄本島出身の所長先生と島のお年寄が島の方言で話していると、ヤマトンチューの私には半分も理解できないが、なんだかとてもいい雰囲気だ。先生はここに赴任して以来すでに5年はたつとのことで、島内の家族・姻戚関係などを実によく把握していらっしゃる。また人口の少ない島なのに子供の受診が多いと思ったら、この島は日本で一番出生率が高い土地なのだという。子供は兄弟6人で一家で10人とかいう家庭も結構あるらしい。予防接種会場では元気いっぱいの子供達に圧倒されてしまった。しかし、島には高校がないためこの子達も皆、島外に出ていかざるを得ず、そのまま島外に就職となるケースが多く、子だくさんの島であっても若者は少ないのが現状だ。

夜は島の民宿に泊まった。外は街灯がごくまばらにあるだけで真っ暗。聴こえてくるのはさとうきび畑を通り抜けてくる風の音と虫の声だけ。海からは私が知っているいわゆる磯の香とは違う、リーフの海独特の香りが漂っていた。

翌朝、古くからそのまま残っている部落を歩いてみた。さんごを積み重ねた石垣に囲まれた赤瓦屋根の家々はシンプルな作りで、開け放たれた縁側からはまん中に仏壇をデンと据えた室内がまる見えだ。島特有の無防備さにはアゼンとしてしまう。

 

 

 

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