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しかし、如何に整備されても島民の見る目は少々違います。検査入院や手術入院を指示すると、90%以上が松江日赤病院を希望し、道後の隠岐病院は拒否するといった土地柄、離島医療への不信といえそうです。情報社会の今日、必要な知識は島民にとって簡単に入手でき、最新の医療を受けたいという基本的な要求に基づくものだけに、現地の医師は僻地だからといってのんびりと診察できません。現在は、非常に熱心で診断技術を十分に備えた若手医師が派遣されており、その熱意が理解されたのか島民の意識は徐々に変化し、診療所を訪れる患者は増加の一途をたどっているようです。そのうえ医師の専門分野を十分に認識し、病気によっては専門医の診察日まで待つという感覚に慣らされつつあります。

 

離島医療の厳しさ

知夫診療所の医師は「(夜中の急変時は酸素と血圧計のみを備えている患者輸送船で島前診療所に送るしかないのだから)明日はないものとして、一人の患者に時間をかけて診察し変化を見落とさないようにしている」という言葉が印象に残りました。都会では「何か変化があれば救急病院にいくように」と説明し、あとは患者の判断に任せという現実をふまえれば、離島医療の厳しさを実感させる表現だったと感じ入っています。

救命救急が必要なときは本土からドクターヘリが約1時間で到着することになっており、その間を耐えるだけの技量は要求されます。ただし台風でヘリが飛べないときは深刻ですが、現実には経験していないとのことです。また救命医療ではありませんが、経験のほとんどないまま急な分娩に立ち会い、一応ことなきを得ているとのことです。やはり僻地ではタンスの奥に仕舞いこんだ知識をひっぱりだすことも必要なようです。

 

離島医療の在り方

・僻地で働く医師の教育

自治医大の卒後教育はsuper-rotate方式 ?(産科は必須)で僻地での必要最小限の知識と技能を培い、誰とも相談せずとも中核病院へ紹介するタイミングを会得する能力をもつように教育されているようです。どこの大学医学部でも同様な考えのカリキュラムが必要ではないでしょうか。僻地で働く医師の体験談を聞かせるのも一法です。

・大学医師の派遣期間

鳥取大学からの派遣は1年交替となっていますが、2-3年をサイクルとすべきと思います。僻地であるだけに、尚更人と人との信頼関係がないと患者は逃げていきます。また医学、医療技術を高めるため、学会や研究会には気分転換も含め積極的に参加させるべきです。その都度1-2週間程度の交替要員を用意する必要はあります。常勤医にも同様な応援体制が要求されます。

・設備投資

今回スタートする予定の画像伝送システムがどれだけ効果を発揮するか、興味を持って見守っています(大阪では市民病院間連携として検討中です)。また聴診器から超音波へと日常的な診断方法が変化したいま、高額診断機器(CT、MRIなど)といえども一定の基準を設けたなかで設置すべきだと思います。

 

おわりに

都会の医療は恵まれた条件下で行なわれているにもかかわらず、見合ったサービス提供となっているか、持てる能力を最大限発揮しているか、投資を有効に活用しているかどうかと問われれば疑問符を掲げざるを得ません。離島における厳しい対応のなかから島民の心を掴む過程を見習い、我が病院の運営に役立てたいと考えています。

 

 

 

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