教訓その3 食料や飲料水の備蓄は、少なくとも初日分は各人の責任で実施する。
近年コンビニエンスストアの普及で、これが家庭の冷蔵庫代わりになっているし、買いだめをしなくなってきている。したがって、家庭の冷蔵庫の食料保存量は減少しつつあり、2日分を切っていると報告されている。阪神・淡路大震災では、被災者は倒れた自宅の冷蔵庫から食料を引っぱり出して、被災者同士で分かちあったのが実態である。乾パンを食べたという被災者にはお目にかかっていない。このようなことから、コンビニエンスストアは、つぎのように社会的に大きな問題をもっていると言える。
1) 各コンビニエンスストアに食料の冷凍・冷蔵庫を完備し、少なくとも1日分は保存する。承知のように、コンビニエンスストアでは食料の賞味期限を過ぎたものは産業廃棄物として処理している。持続的な環境保全や食糧自給の重要性が広く国民の間で認識されてきている今日、このようなやり方は社会倫理に著しく反していると言ってよいであろう。
2) コンビニエンスストアに配送する運送トラックは道路を倉庫代わりに使っている。しかも、店の前では荷役のために不法駐・停車することが日常茶飯事になっている。前者は、当然負担すべき経費を払っておらず、後者は渋滞や交通事故の一因となっている。大規模災害では、直後に道路がほとんど使用できないことを考えると、日常生活の便利さだけで流通経路を整備してはいけないことがわかる。
さて、交通渋滞が救命・救援活動に非常にマイナスになったとの指摘は多い。しかし、これほど車依存社会にあっては、これを制御することはほとんど不可能と考えなければならない。被災後も物流の大半を車輸送に頼らねばならない理由はない。大量輸送には港湾をもっと活用すべきである。また、複数の鉄道事業者間の協定や調整が必要なことは言うまでもなく、この震災ではこれがほとんどなかった。
教訓その4 車依存社会からの脱却が被災後の救命・救援活動を円滑にする。
ライフラインの途絶などによって十分な治療が被災地内の病院では困難である。しかも、交通渋滞などのため、設備の整った被災地外の病院への転送も困難である。その場合、ヘリコプターを活用したすばやい対応が重傷者の生存につながる。しかし、後述するように、木造家屋の倒壊による死者の90%以上は即死だったという報告から、医療施設の耐震強化が直接、死者数の激減につながらないという現実を直視すべきである。また、被災地には、医薬品はあふれるほどあったことがわかっている。問題はどの段ボール箱に医薬品が入っているかがわからなかったことであり、外国から寄贈された医薬品は役に立たなかったと言われている。それは、
1) 処方箋が日本語で書かれていない(当然であるが)ので、正確に訳す必要があったが、そのような人も時間もなかった。
2) 日本人と外国人では1回の投薬量や注射量が違うはずだが、その情報がなかった。ということである。したがって、
教訓その5 救急医療体制の充実は死者数の激減につながらない。