当本部は、福島県の南西部に位置し、新潟、群馬、栃木の三県と県境を接しており、田島町、下郷町、只見町、南郷村、舘岩村、伊南村、檜枝岐村の三町四村で構成された組合消防である。
尾瀬に代表される豊かな自然に恵まれた当地方は、他にも百万年余の歳月による浸食と風化で造られた奇岩怪石がそそり立つ国指定天然記念物「塔のへつり」があり、深々とえぐられた回廊を歩くと塩が付着しており、大昔ここは海であったことをしのばせてくれる。
また付近には、藩政時代会津西街道に栄えた「大内宿」があり、当時の家並みが大切に保存され、まるで江戸時代に迷い込んだ錯覚さえ感じさせてくれる。
当本部は、昭和四九年四月に広域消防署として発足、現在では一本部一署三出張所二分遣所八二名の職員と七消防団三三分団、一、九八四名の団員とともに、管轄面積二、三四二平方キロメートルと神奈川県とほぼ同じ面積、人口約三万六千人の安全・安心を担っている。
★防火対象物についての取り組み
国重要有形民俗文化財「檜枝岐の舞台」、国重要伝統的建造物群保存地区「大内宿」の家並みは、放水銃を始め、各戸に屋内消火栓を設置するなど、防災設備の整備と自主防災組織の強化が図られている。その他、温泉も数多く、ホテル、旅館、民宿数は対象物総数の三〇%を占めている。また、毎年、尾瀬地区に泊まりで入山し、山小屋の防火査察を実施するほか、冬期間はスキー場関連のロッジ・宿泊場所の防火査察など、観光と密接な業務が多いのが特色である。
★防火訪問による出火・死傷者防止
高齢化と過疎化が進む中、一人暮らし高齢者宅の出火を防ぐため、当本部では、春・秋の火災予防運動期間に電気工事組合、民生委員、ホームヘルパーの協力のもと、防火訪問を実施している。今後とも活動の推進を図るものとし、予防業務の充実、更には救急業務の高度化を目指している。
★火災予防は幼い頃からのしつけが肝心
尊い生命と財産を火災から守るためには、幼年期の情操教育が大切なことに鑑み、積極的に広報した結果、ほとんどの幼稚園、保育所に幼年消防クラブが、また、小学校には少年消防クラブが設置され、防火パレードやリーダー研修会の実施、防火・防災思想の普及啓発に積極的に取り組んでいる。
★観光客への対応から
年間を通じ、中高齢層を中心に多くのハイカーで賑わう尾瀬を管轄する当本部にあっては、土地勘のない観光客への対応が問題となっている。ハイヒールを履き軽装での入山により、毎年足を骨折するなどの救急・救助事案が絶えない。この状況を踏まえ、群馬県・福島県消防防災航空隊とヘリコプターを使った合同訓練をするなど、救急救助体制の強化を図っている。また、職員の方も「よい想い出を持って尾瀬を後にしてもらいたい。そのためにも十分な準備で訪れてもらいたい。」とのことであった。
★「常在戦場の精神」で
難しい言葉ではあるが、太平洋戦争中、山本五十六連合艦隊司令長官の残した言葉で「常に危機管理意識を持って対処してもらいたい」という意味が込められており、星消防長は、職員には日頃から誠心誠意を尽くすのは勿論のこと、この気持ちで業務に取り組んでもらいたいと力強く語っておられた。戊辰戦争時、会津と同盟関係にあった長岡出身の長官の言葉の精神がこの地域を守る消防人に、今日でもしっかり息づいているのを感じた。
(河原公一)