日本財団 図書館


消防職員および聴力障害者のための「防災用手話マニュアル集について」

福岡市消防局警防部救急救助課

 

一 はじめに

私たちと市民をつなぐ一一九番通報、災害現場到着後の関係者からの情報収集、救急現場における患者さんへの問いかけなど、現場活動のみならず、市民と関わりながら仕事を進めて行く上で欠かせないもの、それは“コミュニケーション”を図る事である。そしてそれは主に会話をすることにより達成されており、日常的な行為であると言えよう。

ところが、私たちが普通に行っているコミュニケーションの方法、すなわち「言語による意志の伝達」が通用しない場合がある。災害現場で様々な市民と接する中、聴覚障害者とコミュニケーションを図る手段については、これまで(個人的に手話ができる職員は別として)筆談に頼るしか方法はなく、時間的に、あるいはお互いの気持ちを十分理解した上で正確に意志の伝達を行うといった点で、今ひとつ効率が良くないものであった。

このようなケースに遭遇することは、年間を通じてみてもそう頻度が高いものではないであろう。市民との窓口での応対という範囲まで含めて考えてみても、聴覚障害者との応対が何件くらいあるのか、明確には判明しない。しかし、これまでに幾人かの職員が経験してきたことであろうし、その都度何らかの形でコミュニケーションをとってきたものと思われる。

そして、このことはこれまで表面上大きく取り上げられることはなかった事柄とは言え、消防業務を取り巻く様々な問題点の中の一つとして、私たちの深層意識の片隅に残存していたものだと言えないだろうか。

 

二 防災用語手話マニュアル集作成に至る経緯について

『消防職員も手話を習得して、聴力障害者と手話でコミュニケーションを図れるようなテキストを作成しよう。』

この動きは、本市東消防署から発信されたものである。そもそもが一人の職員の提案に過ぎなかったものが、先述した問題意識に加えて、ある種の「手話ブーム」という時代背景も重なり、数名の消防職員の賛同を得たところからスタートした。これまで、特に救急活動面においては、いわゆる災害時要救助者対策として、外国人との応対のための外国語マニュアルというものを本市でも作成していたのであるが、聴力障害者に対する対策は皆無に等しかった。上司に相談してみたところ、「いい話だから、是非やってみなさい。」とのゴーサイン。

五名のスタッフにより制作作業に取りかかることになった。

制作にあたって、まず、お手本探しということで、他都市への照会等による情報収集及び本市における窓口の調査、関連資料の収集から着手した。何分初めての試みであるため、暗中模索の状態でスタートした訳である。同時に手話関係の仕事に関わるに際して、スタッフ各人による手話の独習、書籍等の読破も合わせて行った。

数日後、各都市への照会の結果が出たが、やはりこのような取り組みはなかったようである。しかし、本市においては福岡市聴力障害者協会という組織が、また、福岡県においては社会福祉法人福岡県聴覚障害者協会という組織が存在し、手話通訳者の紹介等、様々なアドバイスを受けることができ、また、制作にあたっても協力して頂けることが分かった。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION