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消防・救急無線のデジタル化について

東京消防庁 通信課

 

一 消防通信の動向

近年、情報通信技術の進歩は目覚ましく、二一世紀初頭にはマルチメディア化による高度な情報環境が整備される状況にあります。今後の情報通信の利用形態は、従来の音声を中心としたものからコンピュータと融合したデータ通信や、より高品質の画像伝送等に主流が移り、それらの技術革新によってこれまで以上に合理的かつ有機的な社会が形成されるものと思われます。

また、昨今驚異的な普及を続ける携帯電話やPHS等の移動体通信の分野では、西暦二〇〇一年を目途に全世界で使用できる次世代携帯電話システムの実用化が予定されているなど、更にグローバルな展開が見込まれています。

こうした高度情報化の流れは、消防通信の分野にも大きく影響し、一一九番回線のISDN(Integrated Services Digital Network=総合デジタル通信網)化のもとでの新発信地表示システム、周波数のデジタル・ナロー化(狭帯域化)による消防・救急無線のデジタル化等早急にその対応を図っていかなければならない問題が次々に上がってきています。

こうしたことから、全国消防長会では、「消防通信に関する特別研究委員会」を設置し、新発信地表示システムと消防・救急無線のデジタル化についてそれぞれ検討を行ってきました。

また、消防・救急無線のデジタル化については、「消防通信問題検討委員会」を設置し、技術的検討とは別に、財政措置及びデジタル化移行に当たっての実施時期や通信運用のあり方等について検討してきました。

 

二 消防・救急無線のデジタル化の背景

消防・救急無線は、広範囲に移動する消防・救急隊にとって、業務執行上欠くことのできないものです。その使用頻度は各消防本部とも増加しており、無線通信の輻輳が頻繁に生じてきています。更に、従来の音声通信のほか、消防車両の動態情報、ファクシミリ伝送、心電図伝送、各種支援情報の伝送等にも利用されるなど無線利用の多様化が進み、周波数に不足をきたしてきました。

一方、携帯電話やPHS等においてもその普及は目覚ましく、平成六年度末に四〇〇万台の加入者数であったものが、平成七年度末には、一、〇〇〇万台を超え、平成一一年三月末には四、七〇〇万台に達し、米国に次ぎ世界第二位の普及台数となっています。

こうした電波需要の急激な増加が、ここにきて周波数の逼迫状況を生み出し、新規の周波数需要を満たすための検討がなされてきました。そして、この問題を解決するための技術的方策が、周波数のデジタル・ナロー化(狭帯域化)です。周波数のナロー化は、過去においても行われてきましたが、現行のアナログ無線方式では、今以上に周波数の幅を狭めて通信を行うことが技術的にできないために、更に周波数のナロー化が可能なデジタル方式によって周波数の有効利用を図ろうとするものです。

周波数のデジタル・ナロー化を道路交通に例えれば、「時速一〇〇キロメートルで走行可能な車線区分のない幅員一〇メートルの道路を二車線にして、それぞれの車線で同時に時速一〇〇キロメートルの走行が可能なように道路環境を改善する」ものです。このことを情報通信に置き換えると、周波数のデジタル・ナロー化によって「今まで一人が専有していた周波数を、もう一人が同時に使える」ことになり、周波数の有効利用が図られることになります。

また、デジタル・ナロー化により、通信の秘匿性の確保や、データ伝送等に適するシステム構築による消防・救急無線の高度化が可能となります。

一方郵政省では、移動通信分野における無線局の著しい増加に伴い、近い将来において電波資源の不足が深刻化するおそれがあることから、平成六年九月電波有効利用指針により、将来の周波数利用、周波数共用、周波数移行等について提言し、未利用周波数帯の技術開発と既利用周波数帯の効率的利用を図り、電波の有効利用に努めることを示しました。

 

 

 

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