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組織管理・人材育成

消防大学校上級幹部科講師

渡部総合教育研究所長 渡部章

 

●パラダイムの変化

環境が激変している今日、国も民間も含めてすべての組織を取り巻く環境は、大きく変貌している。外部環境では、自然環境、社会環境である。旧来の枠組みが崩壊しつつあり、全くテキストのない時代へ突入している。

自然環境では、自然保護、自然との調和が重要視され、官民ともにISOを無視するわけには行かなくなってきた。社会環境では、価値観の多様化、社会構成の変化、社会基盤の変化、文化的生産への希求、企業文化、企業責任が叫ばれている。

社会環境はさらに政治環境、経済環境、科学技術環境、労働環境、市場環境に分類される。政治環境もこれまで以上のグローバル化、経済環境もグローバル化と競争条件の変化、科学技術環境では人間能力の代替・拡張、IT化の進展、労働環境では、勤労観の変化、高齢化・高学歴化・労働生産性、市場環境では製品のライフサイクルの短縮化、開発期間の長期化などが注目されている。喫緊の問題としては、Y2Kすなわちコンピュータ二〇〇〇年問題がある。

このように組織をめぐる諸環境は一層変化のスピードを増してきている。その下では組織の管理にあたるすべての人々に対して、組織体制の柔軟性、情報収集の俊敏さや正確さなどが求められている。こうした枠組みの変化をパラダイム変化といい、あらゆる組織に大きな影響を与え、組織管理の面においても変化を生じてきている。

パラダイムとは、人が考えたり、判断したり、行動したりする際に、意識的・無意識的に関わらずよりどころとしている「法則」「理論」「模範」「考え方」「価値観」などである。

すべての組織人は、こうしたパラダイムの変化を意識していかねばならない。特に管理職員は、リーダーシップを発揮し、こうした変化に対応していかなければならない。パラダイムを検証し、場合によってはそれを意識して変えていかなければならない。

消防の現場をみても、パラダイムの変化はいたるところで現れていることに気づくことであろう。過去に同じ任務をしていた経験のある消防部隊の司令補に昇任しても、部隊の運用もこれまでとは違い、まったく新しい視点に立って考え執務していかなくてはならないことは多くなってきたと思う。これまでとは範囲も極めて広くなってきている。しかし、新任司令補だからという甘えは許されない。また、組織は、人の集まりであり、それを構成する人間一人一人が、組織の目的に向かって役割を分担している。その分担の中で、職務を進めていくプロセスで、これまでのパラダイムとは異なった人間関係とコミュニケーションの重要性についても真剣に考えていくことが求められるであろう。このとき、協働に対する積極意思・共通の目的、及びコミュニケーションの三つがあり、こうした組織の成立要件という基本的事項についてもパラダイム変化に合わせても留意しなければならないことはいうまでもない。

 

●パラダイム変化と管理者

パラダイム変化の時代は、スピードの求められる時代でもある。組織管理でスピードとは何か。それは有効性の尺度と効率性の尺度を同時に実現することである。有効性の尺度とは、目標としていた成果に対して実績はどの程度達成したのかということであり、効率性の尺度とは、目標とした時間に対してどの程度の時間を投入したのかということである。すなわち、スピードとは時間軸で見える捉え方の概念である。時間は、誰にも等しくあるが有限である。時間は、コストであり、個人にとっては人生そのものである。よく「知の生産性」と言われることがあるが、これは、有効性の尺度の生産性であり、具体的には、「先見力」と「決断力」である。一方、効率性の尺度とは、「行動力」と「伝達力」のことである。この考え方は陽明学で言うところの「知行合一」で同じと筆者は考えている。

消防の社会でも専門分野の高度化が進み、それに呼応して業務のより高度化やより専門的な知識・能力が求められてきている。ともすると、業務優先の考え方により人材育成や部下指導が形骸化されつつあることは重要視されなければならない。

 

●組織の盛衰を担うのは職員の優劣

組織は、1]共通の目標2]協働のしくみ3]秩序の維持この三つの要件を満たす集団を組織と言っている。この三つの要件を頭に入れて行動できる人、それが組織人である。

 

 

 

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