このように、町村境界にとらわれない効率的な救急出動体制が確立したことで住民サービスの向上が図られるようになりました。
ウ. 広域的な人事異動で職場を活性化
広域再編前は、職員の年齢構成が偏った署所があり、人事面での停滞感がありましたが、再編後は、人事異動により年齢構成のバランスがとれ、職場の活性化が大いに図られるようになりました。
特に、寺泊消防署は、広域再編前は四〇代の職員が大部分を占め、消防士が一人という状態で、若手の意欲を欲していましたし、逆に吉田消防署は、平均年齢が低く、層の薄さが否めないという状態でした。
このため、積極的に人事異動を行い、適材適所を考慮しながら年齢構成の平準化に努めたことで、職場に新しい風が吹き、職務意欲の向上と士気の高揚が図られています。
小規模消防は、とかく閉鎖的な職場になりがちですが、消防広域化事業を進める中で、新しい風が吹き、職員一人ひとりの資質が確実に向上しています。
広域再編前には、専門研修に取り組みたくても、職員数が少ないため職員を研修に送り出すことが困難な状況でしたが、広域再編後は、五署間で人員を柔軟に配置することができるようになり、救急救命士の養成をはじめ、消防大学校での研修、火災原因調査の専門研修等に積極的に職員を派遣しています。
エ. 住民に開かれた新本部庁舎が完成
私たちの取り組みは、地域の実情に即して自主的に始まった事業ですが、この間、消防庁から「モデル広域消防」の指定を受け、広域再編の準備事務に係る特別交付税措置や新本部庁舎建設事業に対する地方債の充当率の引き上げなど、様々な財政支援措置が講じられました。このことが、私たちの事業に追い風となり、構成町村から理解をいただく大きな力になりました。
今年の三月に業務を開始した新本部庁舎は、消防本部、吉田消防署、防災センター、拠点避難地、ヘリコプター離着陸場等を合築した複合施設で、管内の安全を守る消防と防災の拠点になっています。
開館以来、展示ホールを中心に大勢の住民が訪れ、楽しみながら消防と防災の知識を学んでおり、住民とともに地域を守る開かれた消防防災体制が実現しつつあります。
おわりに
消防の広域化に取り組む以前は、消防を取り巻く環境が激変しているにもかかわらず、私たちの仕事内容は旧態依然としている、そういう閉塞状況にありました。
私たちは、まず、地域全体における消防体制のあるべき姿を明確にし、それに対する財政措置を講じることが最も重要なポイントであると考えました。もちろん、財源には限りがあるわけですから、際限なく消防力を高めるわけにはいきません。地域の消防力の強化と投資効果、その接点を探し出すことが何よりも求められました。
ときには、一蹴されることもありましたが、とにかく提案し、しぶとく提案し続けました。新しい仕事をするときは、いくつもの壁が立ちふさがるものですが、その厚い壁に少しずつ穴を開け、貫通させ、時間をかけて小さな穴を大きく広げる、そんな気持ちや行動が大切なのだと改めて感じています。
歴史が教えてくれるとおり、異なる文化と異なる文化がぶつかったところに新しい文化が生まれてきます。同じ消防職といえども隣同士では、やり方や考え方が異なることも間々あります。それが、一緒の組織になることによって、新しい発想が生まれてきます。消防の広域化を実現した私たちの組合にも新しい風が吹き、確実に新しいものが芽生えています。それが、何ものにも代え難い消防広域化の財産だと感じています。