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しかし、管内の消防団長からは、「時代の変化に対応するためには広域化が必要である」という総論には賛成していただけるものの、団長の任命方法や会計処理の方法など、各論に至ると異論が出てきます。そこで、私たちは団長の任命を構成町村長に委任する方法を提案し、ようやく合意に漕ぎ着けました。

私たちの消防団事務の共同処理方法は、まだまだ未熟ですが、広域再編の際に消防団事務の共同処理を含めることこそ、問題を解決するスタートに立つことだと考えました。今後も、消防団の自主性を尊重しつつ、消防の一体性を確保することを目指して、地域の実情に合った消防団事務の共同処理方法を検討する方針です。

エ. 職員への対応

私たちが事業を進める中で幾度となく体験したことは、職員が消防の広域再編事業に対して漠然とした不安を抱いていたことです。

「自分たちの身分はどうなるのだろうか」、「人事異動はどのような範囲まで行われるのだろう」、「自分の仕事はどのように変わるのだろうか」など、自分たちの身に降りかかるであろう様々な事柄に対して漠然とした不安に襲われ、噂が一人歩きする……。広域再編の一年前には、職員間にこのような話が渦巻いていました。

そこで、広域再編に至るまでの課題を絞り込み、全職員を七つの部会や分科会に振り分け、職員参加を行うことで問題解決を図ることにしました。

部会や分科会がスタートしたのは、新組合が発足するちょうど一年前の平成八年四月のことです。隣り町の消防本部や消防署に勤務していながら、顔も合わせたことがない、名前も知らない同士が集まり、自己紹介をし、議長役を選ぶことから私たちの職員参加が始まりました。

広域消防設立準備室では、部会や分科会の席で、全職員にできるだけ多くの情報を公開し、情報の共有化を行うとともに、職員間で話し合った内容をまとめ、町村議会の代表者や町村長で構成する会議へ提案するように努めました。様々な意見が交わされ、議論が白熱すると、ときには言い争いになることもありました。しかし、話し合うことで問題の所在がはっきりし、お互いの立場がわかり、自分自身の置かれている立場も見えてきます。そして、その人の「人となり」がわかるようになりました。このことが、新しい組合で一緒に働くことになった今日、職場のチームワークづくりに大いに役立っています。

こうして一年をかけ、職員参加を進めることで職員間にあった漠然とした不安は消え、職員一人ひとりの心の中には、「自分たちが参加し、新しい職場を創った」という意識が確実に芽生えています。やはり、ぎりぎりのところまで情報を公開すること、それが当事者から理解を得る重要なポイントだと改めて感じます。

次に、消防の広域化を実現したことにより、生まれた成果を紹介します。

 

三 消防広域化の成果

ア. 火災出動体制が向上

広域再編前においては、火災の際の第一出動は、地元の消防本部から消防ポンプ車が二台、応援協定に基づき隣接する消防本部からそれぞれ一台ずつ応援に駆け付け、合計四台が火災現場に集まりました。

しかし、火災の状況を有線電話で問い合わせてから出動したり、応援要請を受けてから出動することになるため、時間的なロスがあり、応援隊が現場に到着したときは鎮圧状態というようなケースが間々ありました。また、第二出動が必要な場合や、火災と救急、救助出動が重なる同時発生災害の場合には、応援協定による出動体制では柔軟な対応が困難な状況でした。

広域再編後は、第一出動で一気に六台が集まり消火活動に当たるため、平均鎮火時間は一〇分も短縮されています。また、効率的に第二・第三出動を編成できるため、同時発生災害にも柔軟な対応が可能になりました。

イ. 救急出動区域の変更で住民サービス向上

広域再編に伴い、五つの消防署から各集落への出動距離及び出動時間を実測し、現場到着時間が最短になる署を割り出し、町村境界にとらわれない効率的な救急出動体制を確立しました。

特に、内陸の平野部に位置する寺泊町大河津地区では、現場到着時間が広域再編前と比較して半分以上短縮しています。同地区へは、広域再編前は、海岸部の寺泊消防署から出動していたため、現場到着時間が平均で約一〇分かかっていましたが、広域再編後は、同地区に隣接する分水消防署から出動するため、四分で現場に到着できるようになるなど、現場到着時間が大幅に短縮しています。

 

 

 

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