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このため、町村長は地域の消防力に強い危倶を感じておられ、地方分権という時代の大きなうねりの中で、消防業務を広域行政で処理し、はしご車などの特殊車両を共同で配備しようと自主的に声を掛け合い、話し合いのテーブルについたのです。

また、私たち職員も、自分たちの仕事は旧態依然としており、全国水準と比較するとレベルが劣っているのではないかと感じていました。それは、住民サービスの相対的な低下と言えるのではないか……。そう考えると、たいへんな焦りがありました。

職員数一〇〇人以下の小規模消防では、職員研修もままならない……。消防の広域化が実現するまで、それが私たちの姿でした。救急救命士の養成といい、職員の専門研修といい、私たちにとっては、消防の広域再編を実施して初めて実現したものばかりです。

しかし、私たちの事業は、一歩前進したかと思えば、逆戻りしたり、ときにはずっと後退したりと、紆余曲折が続き、幾度となく「これまでか」と思ったものです。次に、私たちが関係者にどのように提案し、議論をやり取りする中で、いかに合意を形成してきたかという点を紹介します。

 

二 広域再編事業の問題点と解決策

ア. 構成町村への対応

新しく設立する組合が確固たる財政基盤を確立するために、まず、私たちが取り組んだ仕事は、負担金の拠出方法に対して構成町村の合意を取り付けることでした。

私たちの組合で言う運営経費(非常備消防費及び庁舎建設費を除く一切の経費)は、「すべての支出項目を合算した上で、その額を一定の基準で構成町村から負担金として拠出してもらうこと。したがって、例え特定の消防署で必要となる費用であろうとも、その消防署を設置している地元の町村が財源を支出するのではなく、全構成町村の負担金をプールにして、その中から支出すること」……この点が合意されなければ、消防業務を広域行政で処理する意味がないと考えました。

そこで、消防広域化基本計画を策定する段階で、組合の予算額を試算するとともに、負担金の拠出方法についていくつかのパターンを設定し、それぞれの方法に応じた構成町村ごとの負担金額をはじき出しました。

同時に、消防費基準財政需要額と予算額との比較を行い、少なくとも構成町村の消防費に係る基準財政需要額を負担金として拠出するよう理解を求めました。

負担金に係る協議の際には、地域の消防力が総体的にレベルアップし、より高度な消防サービスを提供できるようにすることが消防広域化の目的であるを幾度も語り、現在の負担割合を採用することが実現しました。(運営経費に係る負担金は、均等割五%、消防費基準財政需要額割九五%)

イ. 構成町村議会への対応

広域再編に伴う新本部庁舎建設事業費の多くを負担する吉田町では、町議会において議員全員で構成する特別委員会を設置し、私たちの事業について検討いただきました。

議論の中心は、町の財政力を考えると新本部庁舎建設事業は過大な投資につながるのではないかという危倶の念でした。私たちは、建設事業計画と建設に係る負担金の試算を修正し、議会へ提案し続けました。また、管内の消防力を全体的に高めるためには、新本部庁舎を建設する必要があることと、住民に開かれた消防と防災の拠点づくりが必要であることを何度も訴えました。

そして、管内の消防防災体制を築くために、その投資効果が将来必ず生まれてくることを説明し続けました。これには、構成町村ごとの新本部庁舎建設事業に係る負担金額を人口、世帯数、防火対象物、危険物施設数、中高層建物数、火災件数及び救急出動件数を合算した「災害危険度計数」により除した資料を用いて説明しました。

このように、管内の消防力の強化策と投資効果との接点を見つけ出すために、データを用い、ぎりぎりまで検討を重ねることで、議会の合意が形成され新本部庁舎建設事業に対する決断が生まれました。

ウ. 消防団への対応

私たちの広域再編事業が設立間際まで抱えた問題は、消防団事務の共同処理に関することでした。私たちは、現場活動はもちろんのこと、ポンプ操法の訓練指導や消防協会事務など、常備消防と非常備消防は切っても切れない関係にあると考えました。消防団事務を町村に残したまま常備消防だけを広域化することでは、消防団との密接な連携を図ることはできないという強い思いがありました。

 

 

 

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