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救 急

減圧症傷病者の管外搬送

敦賀美方消防組合消防本部(福井)

 

はじめに

当消防組合は、福井県のほぼ中央に位置し、越前・若狭国定公園の海岸線に面した、風光明媚な地方都市であり、敦賀市、美浜町、三方町の一市、二町で構成されている。

本部の所在する敦賀市は、今年敦賀港開港一〇〇周年を迎え、七月一八日から八月一六日まで開催される「つるが・きらめき みなと博21」の実施に向け、市民を挙げて準備を進めているところである。

消防の体制は、一本部、一署、二分署、一分遣所、職員数一三〇人で組織され、救急隊は、各署所に一隊の計四隊で編成しており、うち二隊を高規格救急車二台、救急救命士七人で運用している。

ここに紹介する事例は、原子力発電所が所在する敦賀半島の先端の海域で、スキューバダイビング中に発生した減圧症の傷病者を、長距離搬送した概要である。

 

一 事故発生時の状況

敦賀半島の立石岬沖で水深三八mまで潜水し、スキューバダイビングをしていた傷病者(四八歳・男性)が、潜水を終えて船上に上がった直後、突然体調の異変を訴え意識もうろう状態になり、最寄りのヨットハーバーに搬送されてきたもの。

 

二 事故発生日時等

(一) 発生日時 平成一〇年八月一四日(金) 一五時二〇分頃

(二) 発生場所 敦賀市立石 立石岬沖合 通称サビ崎

(三) 覚知時間 一五時三〇分

(四) 現場到着 一五時四〇分

(五) 現場到着時の状況及び観察結果

クルーザーの甲板上に腹臥位でおり、意識レベルJCS三〇−R・血圧・一三四/一〇四・動脈血酸素飽和度・九〇%・脈拍九七回/分・皮膚に班状出血が認められた。

一緒に潜水していた友人より、事故の状況を聴取した結果、減圧症の疑いと判断し、気道を確保しつつ、一〇ℓの酸素投与を行い、敦賀市内のT病院へ搬送収容した。

(六) 病院収容時間 一五時五三分

(七) 病院収容後の状況

当該病院及び消防組合管内には、高圧酸素療法を行える施設は無く、近隣のDAN協力再圧治療医療機関に受け入れを問い合わせた結果、名古屋市内のR病院に決定した。

転送病院が決定した時点で、盆休み中であり、搬送途上交通渋滞が予想されることから、ヘリコプターでの搬送を考慮したが、搬送途上には、県境の峠があり、この峠を越えるには、三〇〇m以上の高度の飛行が必要と判断。気圧の関係から傷病者の容態の悪化を考慮してヘリコプターによる搬送を断念した。

(八) 病院出発時間 一六時四八分

(九) 転送病院収容時間 一八時五五分

医師、看護婦同乗のうえ、福井県、滋賀県、岐阜県、愛知県の四県を走行、北陸自動車道を経由し、名神高速道路では、予想通り各所で交通渋滞があり、予定より二〇分遅れて約二時間を要したが、R病院へ無事収容した。

 

三 考察

本事例では、高圧酸素療法を行うことが必須であり、速やかに再圧治療のできるDANと提携して減圧症に協力している医療機関への搬送が必要である。

当消防組合管内は、港湾整備事業に伴う潜水作業やスポーツダイビングポイントが数多くあり、今後も今回と同様の事故が発生する可能性は十分予想される。このため、当該医療機関へ収容するまでの時間短縮等を模索しつつ、救急自動車での陸上搬送や、ヘリコプター航行における医療的影響を視野に入れた活動マニュアルの作成、定期的な訓練を実施し、今後の救急活動に対処していきたい。

 

 

 

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