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アースワークとは、地球・土地をキャンバスとする芸術のことである。建物の中で展示されて来た芸術作品を野外に持ち出し、自然環境を保全し、あらたに環境芸術の創出を目指す芸術活動といってよい。もともとは土木造成工事のことを意味したが、1960年から70年代にかけてアメリカで行われた野外、とくに砂漠や山岳、海岸などで大規模な構造物を制作、その作品の形や製作過程が土木造成工事のようであったことから、美術用語に転用されるようになったという経緯をもつ。こうしたアースワークには、従来の美術観に対する批判、なかんずく環境破壊をもたらす現代文明への批判があり、環境の保全にとどまらず芸術活動を通して新しい環境の創出を目指している。

 

4. 灰塚ダムアースワーク計画

 

さて灰塚アースワーク計画とは、ダムの湛水区域に入る三良坂町・吉舎町および総領町の3町にまたがる広大なエリアで、地域住民・地元行政およびダム事業者が一体となり、現代美術の観点を用いることでより魅力的なダム周辺環境を整備すると同時に、その運動を通して、若い世代が定着できるような地域の再建を図ろうとするものである(「灰塚アースワークプロジェクト構想イメージ案・灰塚ダムから環境美術圏を目指すダムづくりへの提言」1997年3月)。しかしこうした構想が、ダム建設事業の開始早々立てられたわけではない。3町による総合的な計画は広島や大阪のコンサルタントによって考えられ、地域おこしのためのメニューが様々あげられるなかで出て来たのが、アースワークであった。

ことにこれに協力したのが、環境問題に関心を持つ建築家や現代芸術作家たちであったことが、その後の方向づけを決定的なものにした。岡部明子「灰塚ダム三十年の決算−公共事業は地球に貢献できるか」(『造景』13号、1998年2月)が、そうしたアースワークプロジェクトの立ち上がる経緯やその内容をくわしく述べ、またそこに介在する問題点を的確に指摘している。

アースワーク計画は、1994年(平成6年)3月のシンポジウム開催でスタートした。地域住民への説明をかねたこのシンポジウムにおける建築家・現代美術家・芸術評論家・美術コーディネーターなどによる議論はほとんど分からなかったが、ダムがパブリックアートの素材となりうることに興味を抱かされたという(矢吹正直氏)。同年8月には若手芸術家や建築、美術の学生らによるサマーキャンプが開かれ、さらに10月から11月にかけては海外作家3名と国内作家2名によるワークショップが行われている。

翌年8月にも多数の学生に芸術家・建築家などが加わったサマーキャンプがもたれ、9月には国内外の芸術家による構造物が展示されるなど、運動はにわかに具体化した。灰塚アースワークプロジェクト実行委員会が結成され(96年6月)、「灰塚ダムから環境美術圏を目指すダムづくりへの提言」が出され(97年3月)、99年9月には建設省江の川総合開発工事事務所、吉舎町・総領町・三良坂町および灰塚アースワークプロジェクト実行委員会の名において「アースワーク宣言」も行われた。

 

 

 

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