だから、演出上注文したのは、そこで一息とって、ブレーキをかけるひまをきちんととって、それから降りてくださいと。こういうことは、やはりその綱元の原則安全性すべて考慮して、演出上どうしてもそういう効果を求めるなら、それだけの配慮はしたいということです。こういう何でもないような事をきちんと守られているかどうか、『人を吊るし上げるなんて、危ないからやめて下さい。』というのは、最初に話しましたように、これは原則不可能になります。私達は、ここで新しい物をつくるのだという事からすれば、原則可能の原点に立たなければならない。ただし、今言ったように安全対策は二重三重にとらなければいけません。そういう事によって、舞台の上の効果というものが、生み出せるんだろうと思うわけです。
舞台の導線、これは皆さん方管理する側よりもむしろ公演するほうのスタッフ、役者に要求することなのですが、私が今までの長い経験で感じるのですが、ベテランの役者ほど稽古で決まった導線を変えない。これはあたりまえなことなのです。状況がどうか把握もできないのに、その日の気分で今日は舞台の袖からまわって出ようとか、勝手にかえたりする。舞台を知らない若い役者ほどそういう事をやろうとする。舞台というのはどういう状況になっているのか、その状況を踏まえて動いてほしいと思います。
整理整頓ができなかったが為に、実際に事故があったわけです。ある劇団が、持込の機材しかもそれは、舞台では使ってはいけない綿コードを使っていた。持込の機材だし、急に変更させるのはできないと、こちらが目をつぶっていたわけなのです。ところが、機材を持って舞台を駆け回るのです、駆け回った時にたまたまショートしました。一瞬の内に電線が火をふきました。そして、袖の取り口のあたりにコードが渦巻いていた、どこから取っているのか一瞬にはわからない。たまたまレースのカーテンが一枚あった、瞬間的にそれに燃え移りました。瞬間的でしたから、上に燃え移らなくてよかった。これは整理整頓がいかに大事かということです。舞台稽古の時は戦争騒ぎです、仕込みから本番に移る間というのは、この間というのはしょうがないのです。整理整頓する暇がないのですから、とにかく舞台をあけるために全力投球しているわけですから。だけれども、開場の前には舞台を整理整頓すべきなのです。舞台というものは、本来神聖な場所であるべきなのです。
舞台裏というのはあまりきれいなものではありません、だけれどもきちんときれいにそうじして気持ちを整理して演じられるような場にしてあげなければならない。こういう事がきちんと行われるか行われないかということです。
舞台での駆け足は、厳禁であります。ある劇団の若い研究生が、舞台稽古の時に楽屋へ忘れ物をして急いで楽屋へとりに行った。駆けて戻ってきた。ちょうど自分の出番で、遅れたら出トチリで演出家に怒鳴り倒されるところだったから、一心に彼女は舞台に飛び出ようとした。でも、その時スライドステージのスライドが開く寸前だったから、監視要員がトランシーバーを持って近くの袖幕に隠れて監視していた。その前を横切って飛び出そうとしたから羽交い締めであわてて止めたのです。間一髪です。もうスライドが開きかけていましたから。そのままいっていたら、奈落へ落ちてしまいます。『絶対に舞台では、駆け足するな。いつバトンが降りて来るかわからない。』気づいた時には、遅いわけですから原則は絶対に駆け足するなということです。それと監視要員の重要さ。