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かつてこういうことがありました。宝塚劇場で、奈落から迫りであがってくる。本番中に出演者が、裾のふくらんだスカートであがってくる。あの衣装はふくらませるために、中にワイヤーを通している、そのワイヤーが迫りのラックに挟まった。下に監視要員がいない。上でボタンを押してそのまま停止せず上ってくる、挟まれて胴体がきれてしまう。非常に悲惨な事故がありました。これは、監視要員がいれば、とっさに緊急停止を操作盤に送って止めることができたのです。つまり、大丈夫だろうで、そういうやり方をしたんでしょう。これは、非常に危険なことです。そういう意味で監視要員を置かなければならないということです。

これも初歩的な注意事項でありますが、吊り物の昇降時の注意、直下にいない。これは当たり前なことです。限られた時間で忙しく準備しなければならない。そうなってくると気にしてはいられません、何かの弾みで吊った物が外れて落っこちてくる事もありうるわけですから。建設現場でもクレーンの下にはいるなと必ずかいてあります。どんなところでもあり得ることだから、注意したいものです。現場の監督は、そういう時に一言声をかける。そうしたら上をみながらそれをよけながら作業を続ける。やはり照明なら照明のチーフ、あるいはチーフではなくとも一緒に働く人達は、その場にいたら上からおりてくるぞ、あるいはあがってくるぞと一言声をかけて注意を促して、できるだけ事故をさける作業方法。もちろん舞台監督はそれを統括しているわけですから、舞台監督にも責任はあるけれども、職場で働く人全員がやはり心配りを持つという事が大事だと思います。ことに小屋を管理するという事はボタンをひとつ押すということは、どういう影響をおよぼすかということを考えながら「おーい!動くぞー」と大きな声をだしてスイッチをいれる。そういう事が大事なのです。

やはり、きちんと管理されているホール、劇場での作業をみると、それがよくわかります。そういう事を丁寧に行っています。

 

5)【舞台における初歩的注意事項】

 

先日、私はある地方のホールで、一つの公演の面倒をみました。これは、地域の人達が自分達の手作りのミュージカルをやる。その中で演出効果上どうしても人を吊り上げたい。ブランコに乗せて人を吊り上げて途中から降ろしたい。このときまず考えるのは、バトンの荷重です。人間一人とブランコの設備を吊りこんで、だいたい普通、バトンの荷重は200kgから最近は500kg超えるものまでも可能になりましたけれど、どんな劇場、ホールのバトンでもだいたい200〜300kgのものは吊れます。ですから荷重にかんしては問題ない。ただ、安全対策はどうするか、ブランコに安全ベルトを本人に着用させる。演出上わからないように着用させる。まず、それが第一の条件、それとバトン操作の原則として荷重とカウンターウエイトの問題。通常はそれに見合うだけの、カウンターウエイトを積みます。ブランコで上に飛ばしている間はいいですが、劇の途中降ろします。降ろしてすぐにその人がブランコから降りてしまうと、非常に危険です。なぜかというと、綱元のブレーキをしっかりかける"間(ま)"がないのです。下手すると瞬間にもっていかれます。

 

 

 

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