今までの事故のなかで、これによって起こされた事故は相当あります。そういう事も含めて常に情報網というものは、整備しておかなければならない。それは今言った多重安全機能の発想が必要になってくる。
機能とは、どういうことか、つまり迫りなど舞台機構を大幅に動かす時、それに対しては必ず安全要員、監視要員が必要です。我々が袖で操作する場合、奈落まで目が届きません。こういった事を確認しないまま機械を動かすという事は、非常に危険なことです。それに対して二重三重の手当てを考えた上で舞台を動かす。そこで初めて安心して演出効果のある舞台ができるわけです。それは迫り機構のあるところないところ劇場ホールによって条件が違います。でも基本的に機械を動かすということに関しては共通したものがあると思うのです。
見こみ操作の危険性とは、つまり物を動かす時に確認しないまま動かすという危険性、多分大丈夫であろうという危険性の事です。
これはひとつの例ですが、ある劇場で、その日は休館日でした。通常、舞台は休館の時舞台の仕事がないから照明をおとしています。たまたま職員の多くの方は休館ですので、お休みをとっていたと思うのです。ところが、操作員の方が一人その日に出てこられて、ちょっと気になることがあるので迫りを動かそうとしました。その日は休館で保守点検の作業員が、奈落で作業をしていました。操作員の方はそれを多分、大丈夫だろうとボタンを押したが為に、奈落で作業されていた方が機械に挟まれて亡くなられた。非常に悲しい出来事がありました。やはりこういうことは確認を怠ったため発生した事例なのです。それと、情報経路の不完全さもあったと思います。
つまり我々、舞台に携わって、どこの劇場でもやっていると思うのですが、予定表というのがあります。それを確認し、職員一人一人に徹底していれば確認できたはずです。
『今日は保守があるな、舞台が暗くなっていて何もないけれど、奈落で作業しているんだな』ということがわかるわけです。こういった事を連絡網の不徹底あるいは本人が予定表に書きこまれていることを確認しないままやったか、そのどちらかだと思います。こういうことをきちんと守ることによって悲しい事故を防ぐ事ができるということです。
また、よその劇団の方が入ってこられる、仕込みをはじめる時にそれぞれに自分の持ち場で自分達なりにやる事をわきまえていますから、ときには簀にあがって作業しないといけない時もある。そうすると、誰にも言わないで勝手に自分であがっていってしまう。下で作業している誰も気がつかない。上で仕事をしているとは思わずそれで吊り物起動ボタンを押す。しかも声をかけないでそれをやると簀作業している人の足元のプーリーがいきなり動く、ワイヤーが動く。それに挟まれる危険性がある。あるいは、奈落で迫りの中に仕込みをしなければならない。そうするとトコトコと奈落にいって自分で思い込みの仕事をはじめる。それを確認しないまま起動するとそこで事故になる。
やはり簀へあがります、奈落に行きますと一言、舞台監督なり操作盤のチーフに声をかけて行くべきなのですが、それが守られないケースが非常に多い。しかも起動するほうは必ず声をかける「バトンあがるよ、迫りが動くよ」と、要はそういう事を確認の上でスイッチ操作をしないと、危険なのです。私達は仕事をさばくのにもちろん同時進行で時間がないし、限られているから一斉にやらないといけない、やはり機械を起動をさせるにはそのぐらいの心配りがないと事故になりやすいわけです。