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舞台美術家の立場から

 

舞台装置家 竹内志朗

 

★舞台は自由空間。

昔の芝居小屋では、舞台に切り穴を切って、人の出入りに使ったり、又、簣の子から別吊りで人を吊り下げたり、舞台の床に穴を切り池を作り、舞台の床下(奈落)から潜って花道に出たり、簣の子からの仕掛けを上演中に、作業する事もありました。芝居の演出に必要な色々な工夫が自由におこなわれて来ました。

それら演出が要求する色々な工夫が、日本の舞台機構を作り出してきました。それは回り舞台であり、スッポンといわれるセリです。日本の伝統的な演劇形式の歌舞伎劇は、舞台を自由に変えることによって、見世物として、お客に大きな満足と楽しさを提供してきました。猿之介歌舞伎の宙吊りや屋台崩しなど多くの舞台美術の機構的な方法論が生まれて継承されています。これらの伝承されている日本の舞台は、歌舞伎劇の伝承的な上演だけでなく、新しい劇の創造にも十分使えるものです。しかしながら、戦後の日本の舞台構造と舞台に対する基本的な概念は必ずしも自由ではありません。舞台の床に切り穴を開ける事など到底「夢」物語です。

 

★舞台では「不可能」の言葉はタブー。

劇場とホールは、その成り立ち、役目において異なります。自由に作り変えられる空間としてホールは考え難い事は分かりますが、観客の立場で考えれば「劇場・ホールに足を運ぶ以上、楽しみと感動を得たい」と思うのは当然でありますし、それに答える事が舞台に携わるすべての人の職務でもあります。私たちが、舞台美術のプラン過程で、上演を予定している会場の管理運営の人達と話をしますと、往々にして「不可能」という言葉が帰って来ます。勿論、昔の芝居小屋のように何もかも自由に出来ない事は分かりますが、「何か方法を探そう」「求められるものに近付く方法が無いか」その為には、どの様に準備するのかを探っていく事が大切だと私は思います。

 

★舞台に自由を…その為に劇場の構造の基本的な考えを

私は、約40年、舞台美術のプランニングを職業としてきましたが。最近、劇場(芝居小屋)公演を地域のホールヘ巡回する事が増えて来ました。芝居であったり、歌手のショーであったりしますが、ホールの機構の違いには、頭が狂います。戦後の公共ホールの建設が、舞台の基本的な概念が統一されないまま、「隣のホールより、これだけ優れている」という、競争意識が、バラェティーに富んだホールを日本の隅々に「多目的」という便利な言葉で建設されたように思います。

 

★舞台の基本概念。

1]舞台は、非日常の世界。観客に楽しみと驚きと感動を与えるところ。

 

 

 

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