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ですから勝手に1ページとは関係なく1シーンの間にチャンネルの1番を自由に動かすことが出来ます、2番も自由に動かすことが出来ます、という概念です。私はかってに言っていますが、オートトランスのコンピューター化がムーブだと思います。仮にですが、オートトランスの32のチャンネルを32人の人間で動かすとします、自在に出来ます。1チャンネルの人は何分後にこのように動かしなさい、このようにチャンネルを上げなさい、2チャンネルの人は何分後にどうしなさいというような事がムーブ式には出来ます。これが大きな違いで、実は最近の各メーカーがムーブ式を取り入れ始めました、各メーカー最高の機種です。まだ全面的ではなく、皆さん方のプリセット型と切り替えをつけています。切り替えによりプリセット型にもムーブ式にもなりますよ、という卓が少しずつ出てまいりました。多分、日本も段々こちらに向かって行くだろうと、思います。ただプリセットフェーダーという概念がありませんので誰もが触れるという卓ではない、やはり公立文化施設で有効な卓かどうかというのは、まだまだ議論が必要だと思います。どう技術者を養成するか、逆にいいますと誰にでも使えるという事を排除する訳ですから、プロユースのもの入れていくという場合には当然あると思います。

先程の1チャンネルがどう動くかという概念、大変難しいのですが、今年5月に「リゴレット」というイタリアのオペラを上演したんですが、有名なラストのシーンで雷がなっている場面で殺人事件が起こるんですが、雷が大変演出的にその台本を支えています。

もともとのスコアでは頻繁に雷の鳴る場所が指定されています。ここで雷が光る、当然音楽的にも雷の音が出ている。演出家は台本にある雷は全て使いたいという要請です。オペラですから演劇的要素がありまして、段々明かりがゆっくりゆっくり暗くなって行きたい、というデザインを必要とします。あるキッカケから全体の明かりを2分間かけてゆっくり落としていきたいという場面がありました。その間に頻繁に雷が入ってくる、しかも、雷だけで60以上のキューがありましたから、段々雷もバリエーションを変えていきます。

例えばストロボが光るだけ、ストロボがホリゾントの片隅に光るだけ、ストロボが舞台に光るだけ、ストロボもいろいろな種類を使いましたので、あるエリアだけ光るストロボが入ってくる、同時に雷が落ちてくる雷光のエフェクトが照射されるというキッカケがドンドン入ってきます。実は今の調光卓でサブマスターに取り込んで色々なヴァージョンでサブマスターで別操作することは可能です。ただ余りにもキューが多いことと、このバリエーションを私のデザインでいっぱい変えてますので、オペレーターはトチルナと、絶対正確に行けないなという事で、全部キューにしました。そのホールはムーブ卓ではありませんので、何をするかといいますと、ここで雷が点いて雷が落ちるというキッカケ、これは連続します、この前の場面の明かりとこの後の終わった場面の明かり全体の明かりを少しずつ落としていくという、無数の雷のキッカケの中に、全体の明かりを微妙に少しずつ落としていくという事で120秒の間に全体の明かりを落とすというデザインを成立させた事がありました。これが普通のシーン式のシーンを記憶させるタイプのベストなやり方です。これがムーブ式になりますと関係ありません。全体の明かり、これは120秒かけて動きなさい、ゆっくり変化をしなさい、その間、何秒間かけて、関係ないものは勝手に動きなさい、というのがムーブ式の概念です。全くページに切り取ってませんので、それぞれがどういうスパンで動くかという発想です。ここにキューが入ってきますが、このキューに関係なくこれだけの明かりは勝手に動いています。

 

 

 

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