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また、この変数をモデルに加えると住宅ローンの有無がもっていた影響力が統計的有意性を失う(もしくは大きく低下する)ことから、前節で述べたように、この2つの変数の間には多重線形性があることがわかる。

「生活の利便性」を転居理由にあげる者の割合については、3つの移動タイプ間で有意な差異はみられないが、遠距離移動者に比べて、近距離移動者にある程度高いことがわかる(表2-5-1の3Cを見よ)。最後に、「仕事・その他」を転居理由とする者の割合は、区内移動者と比較して、近距離移動者および遠距離移動者に高く、なかでも遠距離移動者に高いことがわかる。一方、近距離移動者と遠距離移動者との間には有意な差異はみられない。

以上の結果をまとめると、まず区内移動者の特徴としてあげられるのは、遠距離移動者と比べて就業率が高く、また転居前に親と同居し、現在は持ち家に住宅ローンを払っている者の割合が3移動タイプ中最も高いことである。そして、「住宅事情」を転居理由にあげた者も、遠距離移動者に比べて高い。したがって、このグループの移動の要因は、住宅事情に左右されており、特に以前は親の家に同居していたが、住宅を取得することで転居した者が相当数いることが推測される。政策的観点からこのグループをみると、住宅取得にともなって発生した住宅ローンの支払いという点からも、子どもをかかえる女性の就業割合は相対的に高く、この意味で、なんらかの子育て支援政策に対するニーズがあると考えられる。

次に、近距離移動の特徴としてあげられるのは、6歳未満の小さな子どもをもつ女性の割合が、他と比較して高く、また「育児環境」を転居理由としてあげる者の割合も顕著に高いことである。また、区内移動者同様、女性の就業割合も、遠距離移動者と比較して高い。したがって、このグループが江戸川区の提供する子育て支援サービスに対する需要が高く、またそのような政策的誘因(つまり区が提供するより良い子育て支援サービス)にひかれて、他の東京都および埼玉・千葉・神奈川の近県から移入してきた者が多いことが示唆される。

一方、遠距離移動者には、「夫もしくは自分の仕事」を転居理由とする者の割合が高く、また小さな子どもをかかえる者の割合は比較的低く、就業割合は低い。そして、江戸川区に住宅を所有する者の割合は、他の2つのグループに比べて低い。これらを総合すると、このグループは、現時点では、区の子育て支援サービスに対する需要は最も低いと考えられるが、転居後長くても1年半ほどしか経過していないことを考えると、今後遠距離移動者の女性たちが子どもを産んだり、就業を開始したり、また同区内で住宅を取得する可能性も否定できない。

 

 

 

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