本年度の高齢者等居住移動調査研究について
高度経済成長の終焉後とくに、近年の経済活動の停滞等により、わが国の国内人口移動がこの二十数年来、全般的に減少傾向にあるなかで、高齢人口移動は活発化をみせている。また、少子化が騒がれる中て、子育て期の世代(女性)の転居も増加していると言われる。
従来、人口移動については、年齢別移動率でみると、20歳代をピークとして年齢が高くなるに従って減少し、65歳以上の高齢期にはほとんどみられないのが、長い間の常識であった。
しかし、高齢人口の移動については、1980年代になって、特に大都市圏では高齢人口の移動が顕在化しはじめ、平成2(1990)年の国勢調査結果では、全国的に高齢人口の移動が数、率ともに増加しており、また、高齢人口の移動率は加齢に伴い上昇していることも明らかとなった。このような近年の高齢者の移動(居住移動)行動の上昇は、わが国社会ではこれまでになかった現象で、(1)これらの高齢者がどこからどこへ移動するのか、(2)どのような高齢者が移動するのか(3)高齢者はどのような理由で移動するのか、等々についてはほとんどわかっていない。そして、加齢とともに上昇していく高齢人口の移動は、高齢者の保健・医療・福祉サービス等地域社会の高齢者対策に直接影響をおよぼすことなどを考えると、その実態を把握することは極めて重要な課題となる。
と同時に、高齢期に劣らず、急速な少子化の進行において、子育て期の世代となる女性25〜34歳をみると、その移動率が同世代の男性よりはるかに高く、その移動形態や移動行動の実態把握が重要な課題であると考えられる。
エイジング総合研究センターは、高齢者移動の実態については、その動向や形態、そして移動した高齢者の健康状態、生活状況、移動理由等を調査し、分析する調査研究活動を、高齢人口移動が顕著な大都市圏において、平成2年度より行っている。この調査研究ではこれまでに、札幌市、仙台市、千葉市、市川市、東京都(江戸川区、板橋区、世田谷区、八王子市、多摩市)、横浜市、名古屋市、北九州市、福岡市において、各自治体の協力を得て実態調査を行い、また同時に、その調査結果を客観的に研究分析する作業を積み重ねて来ている。
これまでの調査研究結果から、大都市における高齢者移動について概括すると、(1)総じて大都市では高齢人口が転入超過の傾向にあり、しかも70歳以上の転入者割合が高い。(2)移動理由としては、まず自分と配偶者の健康と生活の維持が大きく関わっている。そして、子どもとの関係が付随してくる。(3)その移動行動には高齢者自身の自発的積極性が窺える。半数以上の人々が自分の意志・意向で移動している。(4)しかし、どこからどこへという移動動向をはじめ、転入、転出、市内転居の規模・割合は各都市で異なり、その家族関係、移動理由等についてみても、各都市各地区ごとに特性がある。
本年度は、これらの分析経験を踏まえ、高齢者対策とともに、子育て支援施策で有名である都市をフィールドとして、高齢者と子育て期の母親、両者の居住移動実態を調査分析すべく、東京都江戸川区の協力を得て、本調査研究を実施したものである。