日本財団 図書館


一つ簡単に言いますと、例えば絵をかいても、舞台を見てもいいんですが、かいた方や、作品をつくった方というのは、かなり厳密に作っている。絵でもどこかに白紙がありましたとか、この辺はいいかげんに塗っちゃえという部分があったら、ほとんど二流から三流のアーティストです。一流になればなるほど、空間にある色があるんだったら、それには理由があるわけです。だから好きに感じていいよといいながら、片方であらゆる部分が厳密につくられている…。

そういうことを考えていただくと、簡単に感じたままでいいのかとなります。ダンスグループ山海塾では、天児牛大(アマガツウシオ)という人が作品をつくっています。広い舞台の中でなぜここに立つのか、これを説明しろというと、説明できるわけです。1センチの幅でなぜここにいなければならないのか、彼にはわかっている。そのぐらい厳密につくってあります。

そういうふうにつくってあって、僕なんか十何年もつき合ってきても、わからない部分がある。アーティストはこれだけ厳密につくるのに、見ている方はかなりあいまいにしかわからない。もしアーティストがあいまいにつくっちゃったら、見ている方は全くわからない。何をやっているか見当もつかないことが起きますから、見当がつかないなというものを見たときは、アーティストが悪いか、まだそこまで見方がわからないという、どっちかなわけです。なぜだろうとわからない部分が非常に多くて、それが次のコンテンポラリーの意味なわけです。

アートの質とは何なのかといいますと、簡単なことです。カラオケでものすごくうまい人とプロの人は何が違うのかということなんです。例えば、素人で演劇をやりたいとワークショップをやって、非常にうまい素人劇団がありますが、プロと何が違うのか。簡単なんです。カラオケのうまい人はだれかの模倣なのです。だれかのまねをしてうまい。素人の演劇も、あの役者みたいに、何とかさんみたいにうまいやというのは、いくらやっても素人なわけでして、こんなものをいくらやってもプロには絶対になれない。基本的にはそこに差があるわけです。

アートというのは、基本的には前の世代のやり残した課題を少しずつ解決しているのです。自分の思いついたまま作品をつくっているわけではない。前から継承して、前のやり残している問題を一個解決すると、必ずまた一つ問題が起きてきて、それを次々に解決していく。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION