それから前政権のブット時代の汚職がいろいろ明るみに出ています。ベナジール・ブットとその夫による不正蓄財とか、IPP契約をめぐっての賄賂が発覚するなど、ますます国民の政治家に対する信頼が失われていったのです。ちょっと後でIPPに関しては触れさせていただきたいと思います。ここで、汚職が経済に与えた影響を具体的な数字で申し上げます。96年に暫定内閣が行った調査で、汚職・賄賂による経済活動への損害はGDPの25%程度であるとの報告があります。
これに加えて、ナワズ・シャリフ政権というのは、パンジャブ州をバックグラウンドとしている政治家ですので、パンジャブ州への思い入れが強いわけです。ですから、パンジャブ州を重要視した政策というのを、常日ごろから打ち出しておりまして、これが他州の人々から非常に反感を買って、政治不信の一つの要因でもあったと言われております。
パンジャブ州重視政策の一つとして、イスラマバード、ラホール間の高速道路建設があります。これは非常に立派な高速道路ですが、問題は、現時点ではあまり利用されていないということです。一生かかっても高速道路の建設代金を稼げないという状況です。生活道路を遮断して高速道路をつくったりするわけですから、家畜が高速道路の上を歩いて行ったりとか、自転車をおじちゃん、おばちゃんが運転しているとか、子供たちが遊んでいるとかという姿が見られます。開発途上国における間違った形での発展の象徴的な例でしょう。
ガバナンスの問題に加えて、ブット、ナワズの時代には、経済の低迷は深刻化しました。ジア・ウル・ハックの時代が終わり、アフガンからソビエトが撤退し、米国からの資金援助停止、それから核疑惑による経済制裁、運が悪いことに悪天候とか病害虫によってパキスタンの経済基盤である農業が大きな打撃を受けてしまうなど、経済が停滞したのです。また経済の停滞とともに闇経済、アンダー・グラウンド・エコノミーが非常に大きくなってきています。
資料1は、文民政権以降のパキスタンの実質経済成長率です。それをグラフ化したもので、左端がGDPの成長率ということで、見ていただいてわかるように、96年、97年、98年と非常に低い数字です。低いといっても2%から4%ぐらいなのですが、これはあくまでもパーキャピタではないので、これに人口の成長率を加えると、ほとんどゼロに等しい数字となります。それと真ん中の赤いグラフが農業の成長率ですが、全くよくないです。唯一の救いが、工業部門が若干伸びているかなという感じです。