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クーデターに至る直接的な原因というのは、皆様もご存じかと思いますが、ナワズ・シャリフと軍部との間で起こったあつれきが拡大していったことが、直接的な原因であります。97年にブット政権が倒れて、その後、総選挙が行われまして、ナワズが属するパキスタンムスリム同盟、PMLと呼んでおりますが、ここの大勝利に終わりました。これによってナワズは、2度目の首相の座に返り咲くわけですが、就任後ナワズは議会でのマジョリティーを利用して、さまざまな改革を行っていきます。

例えば、反テロリズム法という法の制定です。これは、テロを起こす可能性のある者を逮捕状なしで捕まえてもいいという法で、(解釈によっては)非常に危ない法であります。それから、失敗には終わりましたが、憲法改正には、下院、上院の半分の賛成で、憲法を改正していいよという条項を設けようとしました。

ナワズの強権的な政治を進めていくなかで、最も注目すべきものは、第13次憲法改正です。これは何かといいますと、第8次憲法改正によって大統領に与えられていた下院議員の解散権、および首相を罷免する権利を没収するという改正でした。13次憲法改正によって葬り去られた第8次憲法改正というのは、第3次の軍事政権であったジア・ウル・ハックが首相へ権力が偏りすぎることを防ぐ目的で大統領に下院議員の解散権、および首相の罷免権を与えるというものでした。この13次憲法改正によって、簡単に言えば、だれも首相を解任することができなくなってしまったということです。(議会でのPML派の過半数を考えると)首相が自ら辞任するといった以外には、このシャリフ首相を首相の座から引き下ろすということができなくなってしまったわけです。

ジア・ウル・ハクの軍事政権が終わってから、99年の10月まで、軍事クーデターが起こらなかった一つの要因として、この8次の憲法改正によって、大統領に首相罷免権が与えられたことが考えられます。罷免権を使うことによって、軍事クーデターに至る前に大統領が首相を解任して、政権の交代を図っていたのです。しかし、13次憲法改正によって大統領の首相罷免権がなくなってしまったことで、極端な言い方をすれば、軍事クーデターしか首相を解任する道が残されていなかったと言えます。

93年にナワズはいったん首相を解任されています。このとき政治的混乱が広がり、一時は軍が出てクーデターを起こすのではないかという噂がありましたが、このときは軍と、大統領、ナワズの三者会談によって、クーデターを起こさずに政権の交代が行われました。

 

 

 

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