これはどういう口実の元になされたのかというと、国連憲章51条で、暫定的に自衛権、あるいは集団的自衛権が認められるという条項に基づいて、今まで紛争介入をしてきたわけです。ベトナム戦争の場合もそうでした。要するに、同盟国が脅かされているので、アメリカが出動して攻撃するというそのパターンが繰り返されてきたわけです。あるいはソ連も同じ国家で攻撃しました。
今回は、たまたま同盟関係にある国が脅かされているわけではなかったわけですから、集団的自衛権ということも言えなかった。もちろん、個別的自衛権でもないというので、人道的介入と言わざるを得なかったというのが1つの原因だと思います。ですから、確かに国連に対する挑戦ではありますが、これは冷戦期にもあったし、安保理がほとんど機能していなかった時期には、大国が勝手に武力行使をしてきたことに変わりはないわけです。ですから、これによって、完全に国連が破綻したというよりは、また1つ新たな試練の時期に来ていると見たほうがいいのではないかと思っています。
2つ目ですが、おっしゃるように社民党が大半のヨーロッパで今回の武力行使に賛成している。社民党の変質かというご質問かと思います。私も、実は、これが大きな疑問で、とりわけフランスがなぜこういう場合に発言しないのかというのは奇異に感じられたんです。イタリアに行って、あそこは旧共産党が連立政権を、ダレーマ政権を作っているわけです。その中でなぜ積極的に賛成するのかというのを、いろいろな政党に聞いて回ったんです。その中で、ある議員が、われわれは空爆に反対している。しかし、政権の枠組みにとどまって反対するんだという方がいました。なぜ、そうなんだ、政権離脱しないんだと聞いたら、彼の答えは非常に印象的だったんです。われわれはNATOから脱退するか、あるいは加入してこの武力行使を支持するか、二者択一しか選択肢がない。で、NATO脱退はあり得ない。だから、賛成せざるを得ない。じゃ、どうして政権離脱しないのかと聞きましたら、彼の答えは、われわれが離脱した場合に、政権のバランスが崩れて右傾化してしまう。だから、われわれは政権にとどまって反対を言い続けるんだという解答でした。
確かにダレーマ政権の場合は、空軍基地17ヶ所を提供して、監視活動もしましたけれども、戦闘行為には加わらないという一線を立てて、国民を説得したわけです。将来、日本が同じような周辺事態に置かれた場合、非常によく似た立場を取ると思います。消極的な支援、あるいは、支援は積極的にするけれども戦闘行為には消極姿勢を取る。その形が恐らくイタリアの今回のあり様だったんじゃないかと思います。