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ヨーロッパが拡大する。EUが統合され、生産力の高い国々、工業国を中心にEUに入りたい、あるいはNATOに入りたいという大きな流れがあって、初めて起きたのがこの旧ユーゴの解体であり、セルビアに対する懲罰的な制裁ということだったろうと思います。ですから、なぜ、このセルビアだけを一方的に悪玉視して、ほかのクロアチアにしてもボスニアにしても、お互いに内戦状態でやっていたのに、なぜセルビアだけが悪者扱いされるのか。私もずっと国連を担当していたときから、疑問に思っていたんです。

やっぱりEUあるいはNATOにとっては、最後までセルビアが頑強に抵抗する不安定要因になるという見方をとってるのではないかというのが1つの仮説だと思います。もちろん、そのバックには、ロシアがあるわけです。そういう統合の流れの中で、これは見捨てておけない不安定要因だと。これを軍事力で結束して除去しない限り、バルカンの安定はあり得ないというのが、今回のユーゴ空爆の1つの背景としてあります。ですから、人道介入は、その1つのきっかけというか口実だろうと思います。ですから、これがスタンダードとなって、ほかの地域で同じような事態が起きた場合に同じ規模で介入するかというと、私はかなり疑問だと思います。

アメリカやヨーロッパによって死活的な重要性を持つのは、恐らくバルカンと中東だろうと思います。では、アジアで同じような死活的重要性がある場所というと、私は多分北東アジア以外にはないだろうと思います。

3つ目の点に絡んでくるので、そちらからお話したいと思います。今回のユーゴ空爆が朝鮮半島情勢に与える影響はどうなのか。これは、非常に興味深いというか、いろいろな憶測があると思います。一説には、北朝鮮は今回のユーゴ空爆にも関心を持って、どの程度の効果があるのか、特に地下を破壊するような、バンカーを破壊するような爆弾を調査したと言われています。韓国の国防相がそういう答弁をしていました。

2つの点が大きな影響を持つと思います。1つは、今おっしゃったように、国連抜きにアメリカが攻撃に踏み切る可能性は以前より高まった。形としては、まだアメリカは国連軍という形を取っていますから、形式的には国連と一体化した形で朝鮮半島情勢に対処するわけです。今回のようなことがあれば、国連ということを抜きにしても、単独で介入する可能性はあるだろうと思います。

もう1つの教訓としては、空爆と言ってもかなり限界がある。実際に兵力に打撃を与えるだけの空爆ができるかというと、ピンポイントの爆撃ではそれも難しい。

 

 

 

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