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実際、私も撤退するユーゴ軍と擦れ違って、コソボに入るときに見ていたのですが、ほとんど無傷状態の対空機関砲あるいはミサイル、戦車が続々と引き揚げてきて、しかもかなり士気も高いというのを見ていまして、空爆はそれほどこたえていなかったんだということを感じました。実際、後の発表でも、NATOは、今、戦果を修正しつつあります。それほどの被害は出ていないようだというふうに変わってきているようです。

どうしてこういうふうになったかというと、おとり、デコイと呼ばれている、ビニールで作った対空機関砲とか戦車がたくさんあるわけです。それを破壊した中に数えているというのがかなりあったのではないか。これは、湾岸戦争のときにイラクが使った戦法だったんです。今回の場合、特にNATO軍のほうでは、自軍の死傷者を最小限に押さえるということが大原則としてありまして、高度5千メートル以上をずっと保っていたわけです。ということで、おとりかどうかの確認も非常に難しい状態だったため、そこの部分を過大に見積もって、戦果があったと言っていた可能性があるようです。

7月10日に空爆停止になるわけですけれども、一番被害のあったのはその1週間前からです。どうしてかというと、アルバニア側からKLAと呼ばれるコソボ解放軍がかなり入ってきまして、それを援護する形で空爆をして、そのときに相当数のユーゴ側に死傷者が出たと言われているわけです。空爆の場合に、まず地上軍を投入して、相手を引き出して、あるいは相手の場所を明らかにして、それを空爆で叩くというのが、一番効果のあるやり方とされていますけれども、そうでない限り、引きこもって、壕の中、あるいはバンカーの下に隠した場合に、効果を上げるのは非常に難しいということが言われています。

結果的には、ユーゴ空爆の場合もKLAの協力なしに、あるいはタイアップなしには効果が上がらなかったというのが1つの見方だと思います。これは、ペンタゴンの中でも空爆の効果に関しては、これからも空爆だけで戦争に勝てるという空軍派と、そうじゃない、結局、最後は地上軍を投入するしかないという陸軍を中心とする派の中で、予算の扱いをめぐって、今でも議論があると聞いています。

様々な問題をはらんだ今回の空爆と言えると思いますが、私は、これから続く一番大きな問題は何かと考えてみた場合に、コソボの法的な地位をどうするのかというのが、最大の問題だと思います。今回の停戦のときにも確認しているわけですけれども、あくまでコソボは一自治州であって、セルビア共和国の主権下に属するわけです。ヨーロッパの戦後の国際法で作られた概念としては、少数民族が国境の変更を伴う独立をしてはならない、それを認めてはならないという原則があります。

 

 

 

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