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なぜ、コソボに行くようになったかというと、上司から、非常に重要な武力行使にもかかわらずどうも実感が湧かない。日本の読者に非常に遠い世界のことのように思える。できるだけ問題の本質を日常に引き付けて見るような、そういう取材をしてこいということで行ってきたわけです。お手元にある5回の記事が、その1つの結果です。

それ以外に、ちょうど日米ガイドラインの審議が真っ最中だったものですから、もし朝鮮半島あるいはアジアにおいて、周辺事態が起きた場合に、イタリアが日本が置かれるであろう状況を先取りしていると感じましたので、イタリアがどのようにこの紛争に関わっているのかということを取材してきたわけです。

まず最初に、今回のユーゴ空爆の特徴を何点かに分けて、先に申し上げます。その後、実際に、どういう取材をしてきたのか。現地はどういう雰囲気だったのかということをお話して、30〜40分でその説明を終えて、後は、ご質問があれば、それにお答えするという形にしたいと思います。

一番大きな特徴は、今回、国連の決議を経ずにNATO(北大西洋条約機構)が武力行使をした。これは、戦後初めてで、NATOにとっても、国連決議なしに武力行使に踏み切ったのは初めてなわけです。3月24日に空爆を開始して、7月10日、空爆を停止するまで、78日間あるいは79日間、連日空爆をするということで、総出撃回数が2万5千を越えていて、これまでにない大規模な空爆でした。

国連決議を経ないで、あるいは国連を迂回した武力行使をするということが何を意味するかということです。私が感じましたのは、主に湾岸戦争との比較です。湾岸戦争の場合は、12の国連決議を積み上げて、武力行使の目的も明確にしていたわけです。

ところが、今回、その空爆の目標がだんだん移り変わっていきました。最初は、エスニック・クレンジングをやめさせるということだったんですけれども、途中で、ミロシェビッチ大統領を政権から追い落とす、最後には、難民帰還が目標というふうに変わってきたわけです。NATOが自分でミッションを委任する。つまり自己委任という形を取ったのは初めてということで、武力行使の目的も絶えず揺れ動いてしまった。それが1つの特徴ではないかと思います。

もう1つは、NATOが域外に武力行使をして、しかも主権国家の内部のコソボというセルビア共和国の中の一自治州に介入した。これも歴史始まって以来と言っていいと思います。

 

 

 

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