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あるいは当時台湾、朝鮮総督府を管轄していた内務省(一部は現自治省へ)の中にも相当の史料が残っている。あるいは防衛庁の防衛研究所の地下書庫にも、従軍日誌などかなり多くの史料が残されている。そういうふうに政府の情報が十分に開示されないというとどうなるかというと、右も左も限られた資料に基づいて憶測で議論する傾向があるわけですね。右の人たちは証拠不十分で国家関与なんてないじゃないかと言うし、左の人たちはいや絶対にあったと言うわけですね。しかし、原史料が詰め切れていない状況の下では所詮、水掛け論が延々と続くわけです。

我々だって、良心的には心は痛むけれども、韓国の人や台湾の人からそういうことを指摘されても、どっちが本当なのかということが分からないですね。弁護のしようもないし、彼らに同意することもできない。非常に複雑な立場に置かれるわけです。これは私は本当に不健全な状況だと。全ての記録を表に出してみて、それでも国家の関与がないんであれば、それはそれで対応すればいいんであり、あったというのであれば相当の補償をすべきだというふうに思います。このへんをずっと突つかれ続けるわけで、逃げても逃げても追っかけてくるような問題だろうと思います。私は、そろそろ決着をつける時期だと思っています。

それからもう一つ。これも戦前、戦中に占領していた朝鮮半島と台湾に関する話なんですが、もちろん多くの台湾の人たちはものすごく友好的だし、あるいは金大中さんのリーダーシップで、韓国の人たちの雰囲気は大分変わってきていると思いますよ。しかし、これはけじめの問題で、さっき申し上げたように説得力のある論理というのは、つまり自分も納得し、相手も了解するという話ですから、相手の了解だけ取っておいて、自分はすっきりしないというのは、私個人としてはどうも居心地が悪いわけです。もう一つの問題は何かというと、例えば朝鮮半島の統治においては「内鮮一体」だと言っていたわけですね。日本の内地と朝鮮の人々は同じ「日本国民」として等しく扱われるべきだと。そのために、朝鮮人は創氏改名させられて、神社参拝も強要された。しかし、実際は内鮮は一体ではなかった。朝鮮の人たちは炭鉱など劣悪な環境へ送られていった。あるいは慰安婦として引っ張られた人たちは朝鮮の人たちが圧倒的に多かった。そして、サハリンに連れていかれて戦争が終わった後置き去りにされて。こういうことに対する戦後補償ですね。ことに、旧日本軍の軍人・軍属として死亡したり、障害を負ったりした朝鮮台湾の方々への戦後補償問題、これらは、私は戦後これまで日本が本当に真剣にやってきたんだろうか、ということは大いに疑問に思います。

 

 

 

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